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ポリオウイルス最後の隠れ家〜日経サイエンス2013年10月号より

「慢性排菌者」を見つけ出せない限り,ポリオ撲滅は達成できないだろう

 

 過去10年ほど,世界のポリオ撲滅運動はモグラたたきゲームに似た最終局面にある。ウイルス根絶まであと少しに追い詰めたと思ったら,ひょっこり別のところに出現するという具合だ。ポリオ根絶までもう一息となった現在,油断のならない別の脅威が浮上している。隠された感染源がすぐ目の前に存在している可能性があるのだ。

 

ワクチンウイルスを宿す免疫不全患者

 ポリオの最後の隠れ家となっているのは「慢性排菌者」だ。免疫系の働きが弱いため,子供のころに投与された経口ワクチンに含まれていた弱毒化ポリオウイルスが体内で生き続け,長年にわたって腸や上気道から排出され続ける。健康な子供ではワクチンに反応して生じた抗体がウイルスの増殖を止め,感染に対する免疫を獲得するのに対し,慢性排菌者はこのプロセスが不完全に終わり,大量のウイルスを排出し続ける。経口ワクチンの弱毒化ポリオウイルスは変異によって病原性を取り戻す可能性があり,これに感染するとポリオ特有の麻痺を生じるだろう。この可能性は1990年代半ばに広く認識されるようになり,関係者に大きな衝撃を与えた。

 

 英国立生物学的製剤研究所(NIBSC)の副所長マイナー(Philip Minor)は以下のような生物医学的悪夢を思い描いている。野生株のポリオウイルスが絶滅し,各国がワクチン接種を削減する。ある慢性排菌者がワクチン接種を受けていない赤ん坊にキスし,その子が保育所に行く。「そして一大事になる。そこいらじゅうによだれを垂らして,ウイルスをまき散らす。つまり先進国からポリオが復活する可能性があるわけだ」。

 

 同じことは発展途上国でも起こりうる。かつて免疫不全の人は低所得国では長生きできないと考えられていたが,途上国でも医療体制の整備が進み,状況が変わってきた。2009年,その5年前にポリオ経口ワクチンを投与されていたインドの11歳の免疫不全の少年がポリオによる麻痺を発症した。それまで,この少年が慢性排菌者であることは気づかれなかった。(続く)

 

続きは現在発売中の10月号誌面でどうぞ。

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