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仮想世界の現実〜日経サイエンス2013年9月号より

ネット中毒と乳児の死を検証する実録映画

 

 韓国の警察は2010年3月,ある夫婦を世界的に悪評を集めた悲惨なまでに皮肉な事件で逮捕した。2人は「プリウスオンライン」というオンラインのロールプレイングゲームで仮想の娘を育てるのに1日に12時間も費やし,当時生後3カ月だった実の娘サランを自宅アパート内で餓死させたのだった。6月に公開されたあるドキュメンタリー映画はこの話を出発点に,仮想世界と現実世界が混ざり合うハイテク文化の怪しい魅惑を検証している。

 

 ヴィーチ(Valerie Veatch)監督による「ラブ・チャイルド」は,チェ・ミスン(Choi Mi-sun)の母が自分と24歳の娘が2008年に「PC房」(ネットゲームを楽しむインターネットカフェ)に行くことを決めた理由を語るところから始まる。将来のミスンの夫となる男性との出会いを期待していたのだ。韓国ではPC房がもう何年も前から一般的になっている。高速のネット接続基盤が広く行き渡っているうえ,人々が社会的な不満のはけ口としてゲームに夢中になっているためだ。

 

 この映画で描写されているように,ミスンはマルチプレーヤー・ゲームを通じて,当時34歳だったキム・ユーチュル(Kim
Yoo-chul)と出会った。2人は後に内縁関係になり,ミスンはサラン(韓国語で「愛」の意味)を産んだ。ミスンとその母親はユーチュルとともに相当な時間をプリウスオンラインのプレイに費やし,サランはひとり家に残されることが多かった。ついに2009年9月,夫婦が家に戻ると幼い娘が死んでいたのだった。

 

 検察側は夫婦に5年の実刑を求めた。弁護側は,インターネット中毒によって判断能力が損なわれていたとして,2人は責任能力がなかったと応じた(だが夫婦はプリウスオンラインのゲームで生計を立ててもいた。ゲームで獲得した仮想財産を他のゲーマーに売ることで現金が得られる)。インターネット中毒が抗弁に用いられたのは韓国の裁判史上これが初めてで,夫婦の量刑の軽減につながった。

 

 インターネットの接続環境と通信速度の点で韓国はすでに世界一だが,アップロードとダウンロードの速度で他国にさらに水をあけるために,光ファイバー基盤の構築を発表している。そうした改善によってプリウスオンラインなどのゲームをPC房ではなく自宅でする人が増えるかもしれない。だが,それが死んだサランの慰めになるはずもない。■

 

この記事はSCIENTIFIC AMERICANのブログ「オブザベーションズ」(blogs.ScientificAmerican.com/observations)より。

 

動画:映画「ラブ・チャイルド」予告

1390205833:18

 

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