News Scan

世界最小の映画〜日経サイエンス2013年9月号より

IBMが原子を並べてコマ撮り撮影

 

 「最後のフロンティアはどこか?」 スタートレックのファンなら,それは宇宙だというだろうが,IBMはずっと小さな世界を考えている。

 

 同社の研究部門は5月,あるコマ撮り映画を発表した。主役は大きさが原子数個分の棒線画だ。「A Boy and
His Atom」という題名のこの映画は察しの通り,アトムという名の登場人物が個々の原子と仲良くなり,ダンスやキャッチボールをしたり,トランポリンの上で跳ねたりして遊ぶというストーリーになっている。この演技は,温度と圧力,振動を使って,個々の原子を正確に捕捉して配置し操る科学者の能力が飛躍的に向上したことを示すものだ。

 

 「クレイアニメを考えよう。登場するキャラクターを作って場面に置き,写真を撮る」と,IBMリサーチの首席研究員ハインリッヒ(Andreas Heinrich)は説明する。「次に登場人物の位置を変え,別の写真を撮る」。ハインリッヒのチームは原子の配置を繰り返し調整しながら242枚の画像を撮影し,それらをつなぎ合わせて映画を完成させた。これまでに制作された世界最小のコマ撮り映画としてギネスブックに認定された。

 

実は量子コンピューター研究の一環

 登場人物を作るために使われた個々の点は,実は銅の表面にくっついた一酸化炭素の分子で,その酸素原子だけが見えるように置かれている。重さ2トンの走査型トンネル顕微鏡を使って,この表面を1億倍以上に拡大した。顕微鏡は非常に鋭い針を備えていて,この針を使って分子を特定の位置に移動させた。

 

 個々の原子を操作するこの能力は計算と通信の将来に大きな可能性をもたらす。「私たちはデータの移動と格納を原子スケールで行う研究に関心を持っている」と,量子計算を研究するハインリッヒはいう。在来のコンピューターが情報を記録するのに0または1のビットを使うのに対し,量子コンピューターでは,少なくとも原理的には0と同時に1でもある量子ビット(キュービット)を利用する。古典的なビットを使うコンピューターよりも高速に計算できる可能性があり,計算とデータ記憶にいずれ原子を利用できるかどうかを見極めるのがハインリッヒの研究室の任務だという。(続く)

 

続きは現在発売中の9月号誌面でどうぞ。

 

 

サイト内の関連記事を読む