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トゥーマイはやはりヒトだった〜日経サイエンス2013年8月号より

異論に応える解析結果が発表された

 

 Sahelanthropus tchadensis / Ryan Somma

 チャドのジュラブ砂漠で見つかった700万年前の頭蓋骨は,やはり知られる限り最古の人類らしい。発見は2002年で,サヘラントロプス・チャデンシス(Sahelanthropus tchadensis,愛称はトゥーマイ)という新種として分類された。そして,人類の系統が現生動物で最も近縁のチンパンジーの系統と分かれたあたりに非常に近いと位置づけられた。しかし,この頭蓋骨は原始的な特徴を持っており,ヒト族(現生人類に至るヒトの系統すべて)ではなく類人猿のものだろうという反論もあった。最近の解析はトゥーマイがヒト族であるという発見者の主張を支持している。

 

脳の鋳型モデルが語ること

 パリにあるコレージュ・ド・フランスのビアンヴェニュ(Thibaut Bienvenu)らはデジタル処理によってトゥーマイのエンドキャスト(頭蓋内鋳型モデル)を作成した。エンドキャストから脳の形がわかる。この結果,トゥーマイの頭蓋容量は378cm3で,以前の推定値と一致して,チンパンジーの頭蓋容量の範囲内であることがわかった。これに対し現生人類の脳容積はその3倍ほどだ。

 

 だが,トゥーマイの脳は大きさでは類人猿に近いものの,その他の特徴はヒト族に似ていた。米国古人類学会年会で4月2日に行われたビアンヴェニュの報告によると,大きく後方に突き出た後頭葉や傾いた脳幹,横に広がった前頭前皮質など,ヒト族の脳の特徴を示している。

 

 トゥーマイを発見したチームを率いたコレージュ・ド・フランスのブリュネ(Michel Brunet)らは以前に,トゥーマイの犬歯が比較的小さく攻撃性が低いと考えられること,大後頭孔(脊髄の出口となる頭蓋骨底部の開口部)が前寄りにあって直立歩行したと考えられることに基づいて,トゥーマイはヒト族だと主張していた。どちらも人間の証となる特徴だと考えられている。今回のエンドキャストの特徴は当初のこの解釈をさらに強めるものだ。

 

 ビアンヴェニュはトゥーマイのエンドキャストは「人間の脳の進化の第一段階を知ることができるユニークな窓」となり,脳が大きくなり始めるずっと前に脳が人間の状態に向かって再編成された証拠を示していると述べた。また,この初期の脳の再編成は直立歩行に移行した結果かもしれないと付け加えた。■

 

この記事はSCIENTIFIC AMERICANのブログ「オブザベーションズ」(blogs.ScientificAmerican.com/observations)より。

 

 

再録:別冊日経サイエンス219 「人類への道 知と社会性の進化」

 

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