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カメの起源問題が決着〜日経サイエンス2013年8月号より

遺伝子発現パターンの解析から,「発生砂時計モデル」の正しさも裏づけられた

 
 

 昔話の主役やペットとしても馴染み深いカメ。甲羅をまとったユニークなその形態が関心を引くとともに,生物学では謎めいた存在にもなっていた。カメが原始的な爬虫類であるという説は本当なのか。カメの甲羅は何から進化したのか−−。4月末に発表された研究成果は,カメの起源をめぐる論争を最新のゲノム解析に基づいて決着させ,同時に動物の個体発生と進化を結びつける理論の正しさを実証した。

 研究を行ったのは,理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(理研CDB)の倉谷滋グループディレクターと入江直樹研究員,中国ゲノム研究機関BGI,英国ウェルカムトラストサンガー研究所,欧州バイオインフォマティクス研究所などの国際共同研究グループ。Nature Genetics誌6月号に掲載された。

 

soft shell turtle/Chelsea Gomez (Oakes)

Green Sea Turtle – North Shore – Oahu – Hawaii/davidd

 

研究チームは超並列シーケンサーとショットガンシーケンス法という最新技術を使い,スッポンとアオウミガメのゲノム配列の概要を明らかにした。カメ類でゲノムが解読されたのは初めて。これら2種のカメのゲノムを既に配列がわかっている脊椎動物10種と比較して,系統関係を推測した。その結果,カメ類の祖先は約2億5000万年前にワニや鳥のグループから分岐したことがわかった。形態学者や古生物学者が唱えてきた「カメは原始的な爬虫類である」という起源説に修正が必要になったことになる。

 

今回の研究の意味は,カメの起源がわかったことにとどまらない。もう1つの大きな成果が,発生学に関する「砂時計モデル」の正しさを実証したことだ。同モデルは,動物の個体発生と進化(系統発生)をつなぐ理論として知られ,支持する研究者がここ数年増えている。研究チームは,発生の過程での遺伝子の発現パターンをカメと他の脊椎動物で比較することによって,この理論の正しさを確かめた。

 

発生砂時計モデルによると,受精卵から始まる胚発生には,同じ動物門ならば必ず通る「共通のかたち」を示す時期が現れる。動物門とは,脊椎動物や軟体動物といった大きな分類群のことで,脊椎動物門の5つのグループ(魚類,両生類,爬虫類,鳥類,哺乳類)は背骨を中心とした左右相称の骨格に加え,はっきりと区別できる頭部があるのが特徴だ。(続く)

 

 

続きは現在発売中の8月号誌面でどうぞ。

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