宇宙のスピードレース〜日経サイエンス2013年7月号より
最速の宇宙船はどれだ?
Credit: NASA |
人類が打ち上げてきた宇宙船のなかには見事なまでに高速なものがある。最高記録はいったいどれか? それは単にすごいと思わせるだけでなく,おなじみの惑星から深宇宙まで,私たちの宇宙探査能力を知るうえでの興味深い尺度でもある。
ただし,簡単に評価できる量とは限らない。まず,発射速度と最終的な巡航速度は異なる。また,何に対する速度を測るかにもよる。地球から遠く離れた場所では,太陽に対する速度を測るほうが有意義だ。
発射速度の最高記録は冥王星とカイパーベルトに向けたニュー・ホライズンズ探査機だ。米航空宇宙局(NASA)によって2006年に打ち上げられ,すぐに太陽系脱出速度に達した。地球に対する発射速度の時速5万8000kmと,地球の公転運動の速度成分の合計からなる。これらを合わせ,ニュー・ホライズンズは対太陽速度で時速16万kmという素晴らしいスピードで急発進した。
純粋な対太陽速度での現在のチャンピオンはヘリオス1号と2号だ。それぞれ1974年と1976年に打ち上げられた。これらは水星よりも太陽に近づく軌道に入った。太陽のような巨大な質量に近づいて周回するほど移動速度は速くなるので,これら2機の軌道速度は時速24万kmを超えた。
しかしヘリオスの記録は遠からず破られるだろう。まず,NASAのジュノー探査機が2016年に木星系に到達し,木星の極軌道に入る予定だ。木星の質量は地球の317倍ある。この重力井戸の深くに落下することで,ジュノーは対木星速度で時速約26万kmにまで加速する。その後,スイングバイによって速度を落とし,目的の軌道に入る。
2018年にはNASAの新ミッションであるソーラー・プローブ・プラスが打ち上げられる。太陽から600万km以内に接近する計画で,この探査機の軌道速度は時速72万kmに達する見込みだ。この数字はピンとこないかもしれないので言い換えると,地球から月まで30分で移動できる速さだ。光速の約0.067%という見方もできる。■
この記事はSCIENTIFIC AMERICANのブログ「ライフ・アンバウンデッド」(blogs.ScientificAmerican.com/life-unbounded)より。
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