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食べ物が出す指令〜日経サイエンス2013年7月号より

細胞に直接働きかけて行動を変えている

 

 食べ物をホルモンのカクテルだと考えるとあまり食欲をそそらないだろうが,健康への影響を説明するのには役立つかもしれない。オレゴン州立大学の生化学者ジャンプ(Donald Jump)は「食物が生化学物質のかたまりであるのは明白だ」という。

 

 クッキーやブロッコリーに含まれている生化学物質が人体の細胞に引き起こす反応はホルモンが誘発する反応と同様だと,シンシナティ大学のシーリー(Randy J. Seeley)とライアン(Karen K. Ryan)はScience誌2月22日号に書いている。ホルモンは人体のある部分から他の部分へ移動して,標的細胞に化学物質の生産や行動を指示している化学物質だ。

 

 例えばカリフォルニアと日本の研究チームは2010年,食物から摂取されたオメガ3脂肪酸が,脂肪細胞と筋細胞の表面に点在するGPR120という特殊なタンパク質に結合することを示した。オメガ3脂肪酸がこのタンパク質に錠の鍵のように結合すると,GPR120が一連の反応を引き起こして,最終的に体重増加や炎症から身体を守る。

 

 体重増加も炎症も2型糖尿病に関与しているとみられており,シーリーはGPR120などによって誘発される細胞の反応を強めるように食物を選べば糖尿病を防ぐのに役立つかもしれないと考える。

 

 ホルモンに似た作用をする食物栄養素は脂肪酸だけではない。アミノ酸は細胞分裂を制御してインスリンの活性に影響を及ぼす一連の反応を細胞中で活発化する。ビタミンDなどのビタミン類は身体の免疫応答に関与している。オメガ3脂肪酸によって活性化される受容体は,細胞の外部から内部へシグナルを伝える「Gタンパク質共役受容体」というタンパク質ファミリーの一部だ。Gタンパク質共役受容体の多くについてその機能が知られるようになったが,一部についてはどの分子が結合してスイッチを入れるのか依然として不明だとシーリーはいう。

 

 そうした未知の鍵が食物のなかに見つかる可能性がある。ただ,そうした発見を明快なお薦め食品に翻訳するのは「難しいだろう」とジャンプはいう。■

 

 

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