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小さな異物〜日経サイエンス2013年7月号より

ドーナツに微細な金属粉がかかっていた。オエッという感じだが,有害なのか?

 

 食べ物にナノサイズの粒子が含まれている。そう聞くと心配に思うだろうか?

 

 風味を強めたり,脂肪を加えずに口当たりを滑らかにしたりするため,食品会社はナノテクノロジーの利用に関心を寄せている。だが,今回の事例はそれとは関係がない。ダンキンドーナツのドーナツやホステス・ブランズ(すでに倒産)のケーキにかかっていた粉砂糖から,直径10nmに満たない二酸化チタンのナノ粒子が見つかった。これらは偶然に混入したようで,粉砂糖の製造過程での粉砕処理の結果だとみられている。私たちは何年も前からこのナノ粒子を食べていた可能性がある。

 

 環境健康団体のアズ・ユー・ソウが民間の研究所にサンプルを送って調べた結果,ナノ粒子の存在がわかった。非常に小さいので全身の細胞に容易に入り込む恐れがあると,健康団体の人々は主張している。粒子が細胞中で有害な作用を示すと,問題を生じるかもしれない。ただこれまでのところ,食品や食品包装に含まれる二酸化チタンなどのナノ粒子が健康を脅かすかどうかは不明だ。欧州連合(EU)はナノ材料を含む食品はその旨をラベルに表示するよう義務づけている。米食品医薬品局(FDA)はそうした製品が安全かどうかを判断するのに十分な情報がなかったという。

 

よくわからない実態

 多くの食品会社は自社製品がナノ粒子を含んでいるかどうかを知らないか,綿密な調査に及び腰なようだ。アズ・ユー・ソウは報告書作成のため食品メーカー2500社の調査を試みた。回答したのはわずか26社で,ナノ粒子に関する指針を定めていたのは2社だけ。10社は自社がナノ粒子を使っているかどうか不明だと回答,2社は包装にナノ粒子を意図的に組み込んでいることを認めた。「それらが食品中に漏れ出すかどうか,科学者の協力を得て確かめる計画だ」と,アズ・ユー・ソウの最高責任者ベハール(Andrew Behar)はいう。

 

 アズ・ユー・ソウは現在,エムアンドエムズやポップターツ,トライデントガムなどの食品についてさらに試験をするため,ウェブ上で資金を募っている。これらの食品はみな,ドーナツの場合と同様,意図せざる二酸化チタンが含まれている可能性がある。「食品中に含まれるナノ材料は健康にどう影響しうるのか? 安全性を確保するにはどんな仕組みを作り上げればよいのか?」とベハールは問いかける。どの種類のナノ粒子も安全性試験がすむまで商品に含めるべきでないとアズ・ユー・ソウは主張する。■

 

 

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