フンコロガシは星を追う〜日経サイエンス2013年6月号より
天の川の光を道標にしている
フンコロガシは子どもや自分の食料にするために糞を丸めたボールを転がして生きている。だが,地べたで低級な仕事をしているからといって,この虫に空を見上げる目がないわけではない。日が沈んだ後も,夜空を見上げている。
最近の研究から,ある種のフンコロガシ(Scarabaeus satyrus)が直進するために太陽や月の光を強力な手がかりにしていることが示されていた。だがスウェーデンのルンド大学と南アフリカ共和国のウィットウォーターズランド大学の研究グループは,月のない晴れた夜でも多くのフンコロガシがまっすぐ進んでいることに気づいた。
空が道案内役になっているかどうかを調べるため,同研究チームはフンコロガシに厚紙製の特別な帽子をかぶせて実験した(Current Biology誌オンライン版1月24日号に掲載)。星が見える夜,南アのフライバーグの中心地域で,フンコロガシに帽子をかぶせて糞のボールと一緒に放した。対照として,帽子をかぶせないものと,透明なプラスチック製の帽子をかぶせたものも放した。帽子なしと透明の帽子をかぶせたフンコロガシは通常通り比較的まっすぐに歩いた。フンコロガシの食物獲得競争は非常に厳しいので,糞をボール状に丸めるとすぐにまっすぐ歩き始めようとするのだ。これに対し,視界をさえぎられたフンコロガシはずっと遠くまで蛇行しながら,はるかに長くて非効率的な道をたどった。
星だけを目印にしていることを確認するため,研究チームはさらにいくつかの実験を行った。例えばフンコロガシをヨハネスブルクのプラネタリウムに持ち込んだ実験だ。個々の星と天の川など,実際の夜空に非常に近い映像を投影した場合,フンコロガシは正確に進んだ。天の川だけを薄い光の帯として投影しても,うまく直進した。しかし,天の川を抜きにして18個の明るい星だけを投影したところ,直進路を外れて,目的地まで50%以上も遠回りした。
「フンコロガシが単一の明るい星を道標にしているのではなく,天の川の光の帯を目印にしていることがはっきりした」と研究チームはいう。動物界で天の川を道標に使っている例を初めて実証したといえるかもしれない。■
この記事はSCIENTIFIC AMERICANのブログ「オブザベーション」(blogs.ScientificAmerican.com/observations)より。
Dung beetle on dung ball under the Milky Way;image courtesy of Emily Baird
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