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よみがえったウジ療法〜日経サイエンス2013年6月号より

傷を清浄化して治癒を促す仕組みが明らかに

 

 古代から抗生物質の登場まで,医師はウジ虫を使って傷をきれいにし,感染症を防いできた。ウジは死肉しか食べないので,健康な組織まで食われる心配はない。だが抗生物質の登場により,このウジ療法は過去の遺物となった。

 

 ところが抗生物質耐性菌の広まりを受けてウジ療法が見直され,米食品医薬品局(FDA)は2004年にこれを有効な「医療器具」として認可した。現在では業者が滅菌されたハエの卵から幼虫を育て,ティーバッグに似たパッケージに入れて提供している。医師はこのパッケージを傷口に直接あてがう(包装はウジがどこかへ這い出してハエに育つのを防ぐため)。ウジ療法を用いる医師が増えるにつれて,ウジの不思議な治療作用が解明された。二本柱からなる。

 

傷を清浄化,補体応答を抑制

 昨年にArchives of Dermatology誌に発表されたある研究は,ウジを傷口に置くと,現在の標準的な処置である外科的創面切除(メスやはさみを使う)よりも,死滅組織をきれいに除去できることを示した。「死滅組織と感染組織がすべて除去された。傷口を閉じるにはこれが不可欠だ」と論文の主執筆者である仏カーン大学病院の皮膚科医ドンマルタン=ブランシェール(Anne Dompmartin-Blanchère)はいう。また,外科的創面切除は時間がかかり痛みを伴うことが多いが,ウジ療法であればこれを解消できるという。

 

 一方,オランダのライデン大学メディカルセンターのカザンダー(Gwendolyn Cazander)らは,ウジの分泌物が「補体応答」を調節することを発見し,昨年のWound Regeneration and Repair誌に発表した。補体応答は侵入した病原体に対する免疫反応の一部で,感染を一掃するのに不可欠だ。補体がある程度まで活性化する必要があるが,行き過ぎると慢性の炎症を引き起こし,傷口が開いたままになって感染しやすくなる。

 

 健常者から採取した血液試料にウジの分泌物を加えて調べたところ,いくつかの重要な補体タンパク質の生産が抑えられた。こうして過剰な反応が抑制され,傷の治癒が速まることがわかった。「創傷の50~80%はウジで治せる」とカザンダーは結論づけている。ウジ療法というと古くさく聞こえるかもしれないが,実際に効果があることを現代医学が示した格好だ。■

 

 

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