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宇宙飛行士に安眠を〜日経サイエンス2013年4月号より

新しい照明で宇宙飛行士は眠りやすくなる

 

 電球1個の交換に何人のNASA技術者が必要か?

 米航空宇宙局(NASA)にとってこれは冗談ではなく,国際宇宙ステーションの米国軌道上セグメントの古くなった蛍光灯を交換するのに1140万ドルを投じつつある。NASAがこの交換を考え始めたとき,医師たちはあるまったく別の問題に取り組むチャンスであることに気づいた。宇宙飛行士の不眠症だ。

 

 睡眠不足でぼんやりするのは,地球上ではただ不快なだけだが,宇宙では危険だ。宇宙飛行士は1日に8.5時間の休眠時間が確保されているが,実際に眠っているのは平均6時間ほどだとNASAの医務官で航空医官でもあるジョンストン(Smith Johnston)はいう。浮遊感と騒音,変化しやすい室温,換気不足,腰痛や頭痛,そして90分ごとにやってくる夜明けが合わさると, 24時間周期の概日リズムが崩れる。NASAは新しい照明によって,この問題を少なくとも部分的に解決したいと考えている。

 

 人間の目にある特定の光受容器が特定の波長の青色光にさらされると,意識がはっきりすることが明らかになった。睡眠を調節している主要ホルモンのメラトニンを脳が抑制するためだ。反対に,赤色光はメラトニンの分泌を増やす。

 

 ボーイングが開発した新しい照明は,様々な色のLED電球を100個以上まとめて光拡散カバーで覆っているので,白色光の光パネルに見えると,同社のシニアマネジャーであるシャープ(Debbie Sharp)はいう。この光パネルは3種類のモードを備えており,それぞれ微妙に異なる色になる。白色光はふつうに見るときのために,冷たく青みがかった光は意識をはっきりさせるため,そして温かな赤みを帯びた光は眠気を誘発するために使う。ボーイングとその下請け企業は,2015年にこの照明を20個納品する計画だ。

 

 一方,ハーバード大学医学部やトーマス・ジェファーソン大学などの科学者が,この照明の有効性を試験している。

 

 この技術は将来,宇宙だけでなく地球上に広く普及する可能性がある。病室や原子力潜水艦,工場,教室などの照明用だ。「世界中で長年使われてきたからといって,蛍光灯が最良の照明だとは限らない」と,ハーバード大学の共同研究者クラーマン(Elizabeth Klerman)はいう。■

 

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