ステルス病原体〜日経サイエンス2013年3月号より
猫ひっかき病の原因となるバルトネラ菌はいまだに不明な点が多い
獣医の間で長年くすぶり続けてきた問題がいま,医師の興味も引きつけている。猫ひっかき病(インフルエンザに似た症状を伴う一般には軽い病気)を引き起こす細菌は慢性疲労症候群の原因でもあるのか,という問題だ。過去数十年間の症例報告は,バルトネラ属(Bartonella)細菌の感染と,疲労や慢性頭痛,しびれ,痛み,認知機能障害との関連を示唆している。だが,明確な答えはまだ出ていない。
最近の研究で,リューマチ専門医の診察を受けた患者296人のうち41%からバルトネラ菌のDNA断片が見つかった。これら患者の多くは,症状が改善しないまま複数の専門医にかかっていた。だが2012年5月にEmerging Infectious Diseases誌にこの研究結果が発表されると,それを批判する2通の書簡が同誌編集部に届いた。昨年11月に同誌に掲載されたこれらの書簡は,患者の選定基準と感染の判断基準の甘さに懸念を表明する内容だ。
「確かな証拠なしに,何かの病気の原因をバルトネラ菌感染に帰すわけにはいかない」と米疾病対策センター(CDC)の医療疫学者ネルソン(Christina Nelson)はいう。ネルソンによると,この研究結果は解釈が難しい。
問題を複雑にしているのは,この病原体のとらえどころのない生態だ。バルトネラ菌は表面のタンパク質を変化させ,さらに血管の内部に隠れることで,宿主のなかで検出を逃れる。また,ネコやイヌなど哺乳動物を宿主としたときと,ノミやダニなど媒介昆虫に感染しているときとで,戦略を変えることができる。バルトネラ菌に関しては「まだ氷山の一角すら理解できていない」とカリフォルニア大学サンフランシスコ校の医学教授コーラー(Jane Koehler)はいう。
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