移り気な鳥たち〜日経サイエンス2013年2月号より
交尾を目指して変身する柔軟な戦略
セアカオーストラリアムシクイはオーストラリアに生息する小型の食虫鳥類で,一雌一雄でつがいとなって家族をつくる。だが交尾は決まった相手とするわけではないので,多くのヒナは巣で子育てしているオス自身の子ではない。
このように婚外交尾が活発だと,メスをめぐるオスの競争も激しくなる。そうした競争によって飾り羽などの特徴が発達し,種分化をもたらす力にもなりうる。
私たちが研究しているこの鳥の場合,オスは2つのタイプに分かれる。色鮮やかな赤と黒のオスと,くすんだ茶色のオスだ。どちらになるかはホルモンが決めており,繁殖期になる前に他の鳥とどんな交流をしたかが,そのホルモンを調節しているらしい。地位が比較的高いオスの場合,男性ホルモンのテストステロンが増え,明るい色彩に成長する。しかし,メスからあまり関心を示されなかったり他のオスから攻撃されたりと,他の鳥から否定的に扱われたオスは,テストステロンが減ってくすんだ色彩になる。
赤と黒の鮮やかな鳥は若いうちに父親になるが,くすんだ茶色のオスは悪条件を我慢する。そのままでは交尾できそうにないので,交尾できる色鮮やかな表現型を獲得するために,あらゆるコストを節約する。飾り羽は永続的ではないので,条件が改善されるまで1〜2年待ち,鮮やかな飾り羽になったところで交尾する。
これまでの単純な進化モデルは,こうした飾り羽の変化などの表現型の可塑性を考慮に入れていなかった。表現型の可塑性が何をもたらすのか,興味深い。(談)
語り手 マイク・ウェブスター(Mike Webster)。コーネル大学鳥類学研究所(ニューヨーク州イサカ)の進化生物学者。
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