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壊れにくくするために,壊れやすく〜日経サイエンス2013年1月号より

人工軟骨などに道を開く新ハイドロゲルが登場

 

 何かを壊れにくくする秘訣は,壊れやすくすること──少なくとも微視的なレベルでは壊れやすくすることだ。ガラスのように硬いが脆いものが砕けるとき,破損に関係する分子は破片の表面にあるものだけだ。個々の破片の内側にある物質は実質的に影響を受けない。そこで,脆さを抑えるために応力を表面下に分散させる材料が設計されている。応力を分散させることで,ひびが広がるのを防ぎ,物体がバラバラにならないようにする。

 

 ハーバード大学のスオ(Zhigang Suo)らはこの原理をハイドロゲルと呼ばれる種類の材料に適用した。ハイドロゲルは水と長い高分子のネットワークからできており,高分子が骨組みの役割を果たしている。スオのハイドロゲルはゴムなみの粘稠(ねんちゅう)度で,壊れずに元の大きさの20倍まで伸ばせる。これに対し一般的なゴムバンドは6倍以上に引き伸ばすと破断するとスオはいう。また新材料は驚くべき靭性も備えている。つまり,壊れずに圧力や張力,衝撃を吸収する能力が高い。このハイドロゲルを壊すには,同様の材料と比べて10倍以上のエネルギーがかかる。

 

2つの骨格

 従来のハイドロゲルは靭性に欠け,多くは豆腐のように崩れてしまった。スオのハイドロゲルの秘密は高分子の骨組みが1つではなく,2つ含まれていることだ。第1の骨組みは藻類から抽出した長い炭水化物の分子鎖でできている。この鎖がプラスに帯電したカルシウムイオンによって結びつき,ジッパーの両側のように対をなす。

 

 第2の骨組みは合成ポリマーでできており,高分子の鎖が互いに強く化学結合している。材料に衝撃が加わると,藻類由来の高分子ジッパーが開き,カルシウムイオンが水中に分散する。第2の骨組みは,ひびの入った表面よりも深いところへ応力を分散させ,加わったエネルギーを材料中に散らす。応力が取り除かれると,材料は傷を自分で修復する。藻類由来高分子鎖のマイナスに帯電した部分にカルシウムイオンが引き寄せられ,ジッパーが元のように閉じるからだ。(続く)

 

続きは現在発売中の1月号誌面でどうぞ。

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