SCOPE & ADVANCE

泥棒アグーチと生物多様性〜日経サイエンス2012年12月号より

絶滅した大型動物に代わって植物の種を分散しているようだ

 

 何千年も前,ゾウに似た大きな動物があたりを歩き回り,果物をたくさん食べては排泄していた。そのようにして昔の森林に種子がばらまかれたのだろう。だが,そんな大型動物が絶滅して久しい現在,謎が残された。同じ木がいまも残っている場合,その種子をばらまいて現代の森林を生み出しているのは何者なのか?

 

 少なくとも1種類の木についてはその答えが出たようだ。あるずるい齧歯(げっし)動物による奇妙な泥棒行為が貢献しているらしい。

 

 パナマにあるスミソニアン熱帯研究所とオランダのワーゲニンゲン大学などが参加する研究グループは,この動物が餌の隠し場所を互いに略奪し合って,これまで考えられていたよりもはるかに広い範囲に種子をばらまいていると報告した。動物も植物も,種の生き残りには分散が重要だ。より広範囲に個体が分散していれば,病害虫の影響が小さくなるほか,新たな気候帯に移動できるし,個体群の間での遺伝子の流動性が高まる。

 

隠した餌を無線で追跡

 その齧歯類とはアグーチ──しっぽのないリスに似た,飼い猫ほどの大きさの動物だ。研究グループはパナマ運河のバロ・コロラド島で餌の隠し場所に黒ヤシの種子を保存しているアグーチを1年間かけて調べた。隠し場所にビデオカメラをセットし,589個の種子のそれぞれに発信器つきの長い糸をつけ,無線で追跡した。(続く)

 

 

続きは現在発売中の12月号誌面でどうぞ。

サイト内の関連記事を読む