押し返すクッション〜日経サイエンス2012年10月号より
押すと膨らみ,引っ張ると縮む材料
材料版の「逆心理」といったところだろうか。腰掛けると縮むのではなく膨れるクッションを想像してほしい。あるいは,引っ張ると伸びるのではなく短くなるゴムひも……。ノースウエスタン大学の2人の物理学者モター(Adilson Motter)とニコラウ(Zachary Nicolaou)が正しければ,そんな信じがたい振る舞いをする材料を近いうちに作れるようになるかもしれない。
2人は適切な構成要素を「メタマテリアル」にまとめ上げると,「負の圧縮率」という性質が生じるようになることを理論的に示し,5月のNature Materials誌電子版に発表した。メタマテリアルとは,その振る舞いが化学組成や分子構成ではなく,より大きな規模のパターンによって決定づけられる材料だ。
そうした材料の分子はびっくり箱のバネのように振る舞い,少し圧力をかけると拡張状態に遷移する。そしてびっくり箱のバネを元通り箱のなかに戻すのには力が必要なように,この材料も初期状態に戻すにはエネルギーがいる。こうしたバネのような分子(あるいはそれと同等なもの)をおもちゃの組み立てブロックのようにたくさん積み重ねると,負の圧縮率を持つ材料ができる可能性がある。「この材料を作るのに必要なものはすべてそろっている」とモターはいう。もっとも,実際に作った例はまだない。
この材料は何かの役に立つだろうか。最も有望な応用は膨張・収縮によって力を増幅するセンサーやアクチュエーター,あるいはシートベルトなどの安全装置だろうとモターはみる。ただ,いまのところは単なる珍奇なアイデアだ。
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