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おいしいトマトの秘密〜日経サイエンス2012年10月号より

風味の決め手となる香り成分が特定された。高収量でも味のよい品種を開発できそうだ

 

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 スーパーで売っている一般的なトマトは赤く熟し,しっかりした手触りで傷がないが,風味もない。少なくとも1970年代以降,米国の消費者は美しいけれども味気ないトマトにがっかりさせられてきた。味ではなく,収穫量と輸送時の耐久性を求めて品種改良されてきたためだ。最近は有機栽培農家や食通が「エアルームトマト」の優れた風味を推奨している。色も形も大きさもばらばらの伝統的な品種のトマトだ。

 

 標準的なトマトと100種類以上のエアルームトマトの化学組成を詳しく調べ,さらに170人に味を比べてもらった研究がCurrent Biology誌6月号に掲載され,近年明らかになってきた事実が裏づけられた。トマトの風味を決めるのは糖と酸のバランスだけではなく,微量の香り化合物が関係している。スーパーで売っているトマトには,そうした香り物質の多くが含まれていない。

 

糖分だけでは説明できない風味

 フロリダ大学のクリー(Harry Klee)は過去10年間,トマトの風味について研究してきた。スーパーのトマトがあまりおいしくないのは,できるだけ多くの実がなるように品種改良されてきたのが一因だとクリーはいう。1本のトマトの木に実る果実が多くなるほど,トマト1個に分配される糖分は少なくなる。だがクリーらはトマトの風味を決めるのは糖分だけではないことに気づき,その化学的配合を調べる研究を3年前に始めた。これまでの発見から,高収穫量という経済性を損なうことなくトマトの風味を高める新しい方法を編み出せる可能性があるとクリーは考えている。

 

 クリーらは152種類のエアルームトマトをフロリダ大学の畑と温室で栽培し,標準的なトマトを地元のスーパーで購入した。それらを薄く切って,実験参加者によく噛んで味わって食べてもらい,食感と甘味,酸味,苦みの強さ,総合的な風味,どれだけおいしいと感じたかを格付けしてもらった。予想通り,参加者たちは糖度の低いトマトより高いものを好んだが,糖度だけではこの好みを説明できなかった。トマトを切ったり噛んだりすると鼻腔に入り込んでくる揮発性の化合物も,風味に寄与していた。(続く)

 

続きは現在発売中の10月号誌面でどうぞ。

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