殺虫剤が脳に影響〜日経サイエンス2012年9月号より
農業用殺虫剤のクロルピリホスは子供の脳の発達に影響する恐れがある
広く使われている殺虫剤クロルピリホスは米国では2000年に室内での使用が禁止されたが(訳注:日本はクロルピリホスを添加した建材の使用を2003年に禁止),いまだにその影響が現在思春期にさしかかっている子供たちの脳に見られるという。磁気共鳴画像装置(MRI)を用いた最近の研究で,母親の子宮内でクロルピリホスにさらされた子供の脳に変化が生じ,その変化が小児期を通して続いていることがわかった。
比較的高濃度のクロルピリホスを含む母親の血液〔臍帯血(へその緒から採取した血液)で測定〕にさらされた子供20人の脳画像を調べた結果,低濃度の場合の子供たちに比べて明らかな違いが見られたと,コロンビア大学公衆衛生大学院の疫学者ラウ(Virginia Rauh)はいう。この研究結果は4月末に米国科学アカデミー紀要電子版に発表された。「脳の発達中に,ある種の攪乱が生じた」とラウは指摘する。
異常が認められたのは7歳から10歳前までの男児6人と女児14人の計20人で,その母親たちはクロルピリホスの室内使用が禁止される前,殺虫剤として広く使われていたころにこの物質にさらされていた。全員がニューヨーク市に住むドミニカ系またはアフリカ系米国人家庭の子供だ。ニューヨークの同様の家庭で臍帯血中のクロルピリホス濃度が比較的低かった子供20人と比較すると,大脳皮質のいくつかの領域に隆起があり,別の領域は薄くなっていた。
この研究はそうした脳の変化を特定の障害と対応づけてはいないが,異常が認められた領域は注意力や意思決定,言語,衝動の制御,作業記憶などの機能に関連している。クロルピリホスは農業用殺虫剤として現在も広く使われており,動物実験でも今回の発見と同様の結果が出ている。ただし果物や野菜を洗えば,残留しているクロルピリホスを除去でき,危険性はほとんどなくなる。
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