発毛研究,徐々に進展〜日経サイエンス2012年8月号より
時間はかかりそうだが,新たな芽が出てきた
米国の男性の40%以上は18歳から49歳の間に男性型脱毛症の兆候を示す。だが,このグループの男性のゲノムを調べた研究では遺伝的な原因を突き止められなかったため,根本的な治癒は難しそうだ。
しかし,男性型脱毛症(アンドロゲン性脱毛症ともいう)の治療法がやがて登場するかもしれない。最近の研究は3つのタイプに分かれる。1つは3月にScience誌に報告されたもので,男性型脱毛症の男性ではプロスタグランジンD2(PD2)という化学物質の血中濃度が高いことをペンシルベニア大学のコサレリ(George Cotsarelis)のチームが突き止めた。マウスでPD2受容体を阻害したところ,毛が成長し続けることが確認された。この阻害薬は局所に塗布できるとコサレリはいう。
彼は新たに毛を生やす研究も進めている。マウスに傷をつけると,治癒の過程で新たな毛包が生じることに研究チームは気づいた。この新たな毛包は,Wntシグナル伝達経路という過程を通じて皮膚の細胞が変化して生まれる。この経路は毛が自然に抜けた後に新たな毛を生み出しているのと同じ経路だ。コサレリはある企業と共同でこの過程を再現しようとしている。
3番目の方法は「毛包新生」と呼ばれ,患者の毛包にある幹細胞を取り出し,増やしてから再移植する。だがいまのところ,幹細胞を取り出して培養すると,その細胞は自分が毛髪の細胞であったことを“忘れて”しまうようだ。現在,この“記憶”を元に戻す方法が探られている。
研究者たちはアンドロゲン性脱毛症の治療法の研究は続いているので,辛抱強く待ってほしいという。「多くの人は草を生やすのと似たようなものだと考えているが,そんなに簡単ではない」とコサレリはいう。「がんの治療にも似て,非常に複雑なプロセスなのだ」。
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