SCOPE & ADVANCE

外村彰逝く〜日経サイエンス2012年7月号より

量子力学の姿を撮り続けた実験家は,最後の挑戦を前に力尽きた

 

 5月9〜10日,東京・新宿で最先端研究開発支援(FIRST)外村プログラムの国際シンポジウムが開かれた。中心研究者である外村彰日立製作所フェローの古希を祝う席にもなるはずだったが,各国から集まった物理学者らを出迎えたのは,本人ではなく遺影だった。外村彰は5月2日未明,膵臓がんのために逝去した。(文中敬称略)

 外村ががんと診断されたのは,東日本大震災の衝撃からさめやらぬ昨年3月15日だ。プログラムの目標である分解能0.1〜0.4Å(1Åは10−10m),原子の中まで見える超大型電子顕微鏡の建設が本格化したところだった。

 4月7日に手術を受け,膵臓の半分と脾臓の大半,胃を摘出した。療養中も体調が許す時はヘルメットをかぶって建設サイトに足を運び,8月には研究に戻ってきた。本誌が取材して記事を書いたのはこのころだ(「ゲージ場の証拠を撮る」2011年11月号)。

 だが小康状態は長くは続かなかった。今年3月下旬に再び体調を崩して入院。4月24日に,体力を振り絞って会議の参加者に向けた短いメッセージを録画した。「会議に全部参加できるかどうかはわかりませんけれども,最初だけは何とか出たいと思います。意欲だけは示したいと思っています。さようなら」。1週間後,外村は息を引き取った。診断から1年2カ月に満たない短い闘病だった。

 

物理におけるトポロジー

 シンポジウムには,著名な研究者が多数参集した。ノーベル賞の受賞者ヤン(Chen Ning Yang),レゲット(Anthony J. Leggett),小林誠,野依良治。そしてアハラノフ・ボーム効果(AB効果)の提唱者であるアハラノフ(Yakir Aharonov),電子顕微鏡分野の友人である飯島澄男,ズー(Yimei Zhu)といった面々だ。

 会議は外村の最後のメッセージで始まり,中国・清華大学教授のヤンが基調講演した。ヤンはトポロジーという数学の概念が物理学をどのように進展させてきたかを振り返り,冒頭に外村の最も有名な仕事であるAB効果の検証実験を挙げた。(続く)

 

続きは現在発売中の7月号誌面でどうぞ。

C. N. ヤン博士とY.アハラノフ博士が外村博士について語ったインタビュー記事もあります。

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