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藍藻で海水温が上昇?〜日経サイエンス2012年6月号より

異常発生が温暖化に働く可能性

 

 藍藻(シアノバクテリア)それ自体は,海に浮かぶ小さな光合成生物だ。だが,互いにつながって鎖状となり,さらに何百万もが集まってマット状になると,脅威になりうる。藻類ブルーム(水の華,青潮)だ。間もなく海の色が変わり,風で生じる小波が立たなくなる。

 ある研究によると,すでに広がっているこの藍藻が,海水温の上昇によってさらに10%以上広がる可能性がある。また,藍藻のマット自身がその場の海水温を上げ,強力なフィードバックループを作っている可能性が調べられている。

 

光を吸収,波を弱めて…

 藍藻はどの海域にも見られ,大量の酸素を吐き出して大気の成分構成を規定している。また,窒素やリンなどの栄養分を周辺から吸収している。藻類ブルームが生じると,魚や他の植物プランクトンなど周囲の生物が犠牲になることが多い。では,藍藻が自分の生息域の温度を変え,冷水を好む生物よりも自分に都合よく上げているとするとどうなるのか。独ハンブルク大学の気象科学者ゾンターク(Sebatian Sonntag)は,藍藻がどのように海の温度を変え,それがどんな結果をもたらすのかが焦点になってきたという。

 ゾンタークらは海水層の混合を記述するコンピューターモデルに手を加え,トリコデスミウム(Trichodesmium)という藍藻がもたらす2種類の変化を計算に入れるようにした。藍藻によって光の吸収が増えることと,波が弱くなることの2つだ。この改良モデルでは,光の吸収によって海水面の温度が2℃上がると予測された。また,波が弱まることで,その場の海水温は約1℃上がるようだ。

 海における藻類ブルームについてこの種の影響を調べた研究はこれが初めてだろうと,アムステルダム大学の水生微生物学者で湖での藍藻の光吸収を研究しているユイスマン(Jef Huisman)はいう。ゾンタークもユイスマンも,新モデルの予測を検証し改善を加えるために,藍藻が育っている領域と周辺の何もない領域の海水温を計測するよう海洋学者に依頼したいと話している。

 

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