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「速い言葉」と「遅い言葉」〜日経サイエンス2012年6月号より

音節を発話するスピードの違いはあるが,伝えている情報量はどの言語も同じらしい

 

 「いくつかの言語の話者は機関銃のように高速でまくし立てるが,他の言語はゆっくり訥々として聞こえる」と,1998年に言語学者のローチ(Peter Roach)は書き記した。数カ月前,ローチのこの観察を体系的に数値化した研究によって,驚くべき説明がついた。

 仏リヨン大学のペレグリーノ(François Pellegrino)らは昨年のLanguage誌に,7つの言語で同じ20の文章を読み上げた59人の発話を解析した結果を発表した。“速い言語”とされる日本語とスペイン語は,1秒あたりの音節数が最大だった。調べたなかで“最も遅い”言語は中国語で,次はドイツ語だった。

 

音節あたりの情報量に注目

 だが話はそれで終わりではない。研究チームは各言語の音節あたりの情報密度を,ベトナム語という8番目の言語を基準にして比較・計算した。この結果,スペイン語の平均的な音節が伝達する情報量はわずかで,文全体の意味のほんの一部にしか相当しないことがわかった。これに対し,中国語の個々の音節はずっと多くの情報を含んでいる。おそらく中国語の音節はトーン(音の高低,四声)を含んでいるからだ。要するに,スペイン語と中国語は実際にはほぼ同じ速さで聞き手に情報を伝達している。

 発話速度と情報密度とのこの相関関係は,調べた7つの言語のうち5つに見られた。世界には多様な言語が存在するが,すべて一定の速度で情報を伝えるようになったと研究チームは推測している。人間の知覚システムに合わせてそう調整されたのだと考えられる。(続く)

 

続きは現在発売中の6月号誌面でどうぞ。

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