きょうの日経サイエンス

2012年3月21日

ブックレビュー特集「大学1年生に薦めたい本」より(後半)

 昨日に続いて,ブックレビュー特集「大学1年生に薦めたい本」より,一部を紹介します。

 

狭い世界に閉じこもらないように
 後半の最初は,西川恵子・千葉大学大学院融合科学研究科教授です。西川先生の研究室は,液体と気体の境界領域にある超臨界流体の構造を,分子分布の乱れ(ゆらぎ)に着目して物理量として測定するとともに,ゆらぎそのものが物質の性質に及ぼす影響を研究しています。「ゆらぎの構造化学」という独創的な分野の開拓が高く評価され,この春,日本化学会賞を受賞されました。
 「大学1年生へのメッセージ」では,これからのサイエンスでは「境界領域,中間領域が発展してくると思う」としたうえで,「存分に科学を楽しむために,狭い世界に閉じこもらないように心がけて」とアドバイス。得意分野を伸ばすことは大事でも,あまり早い時期から専門を絞ってしまうと将来の可能性を狭めることにもなる,というご意見です。

 

「これを勉強したい」という目標があって来たのでしょ?
 前野昌弘・琉球大学理学部准教授は,素粒子がご専門ですが,知る人ぞ知る「いろもの物理学者」(この魅力的なハンドルネームはご本人の命名ではないそうですが)。前野先生のツイッターやブログをよく見てます,という読者も少なくないと思います。
 前野先生は「もう「試験の為の勉強」はしなくていいんだからさぁ,もっと気楽に楽しみなよ」と嬉しいメッセージ。「『これを勉強したい』という目標があって(大学に)来たはずなんだから,ここからは勉強することそのものが目標になり,楽しみとなり,ご褒美となるはず」。大学に入って一息ついたら,次の楽しいステップが待ってます。

 

よき出会いにショートカットはない
 森田真生氏は,日本では少ないインディペンデントの研究者です。ご自身の研究を進めるかたわら,福岡県糸島市内で数学道場「懐庵(かいあん)」を立ち上げ,科学者をゲストに迎えてレクチャーや公開トークを行うなど,ユニークな活動をされています。
 森田さんはご自身の書棚を眺めて,こう振り返ります。「運命的な書物との出会いは,無駄に思えるような膨大な本たちとのやりとりに支えられている。……急がば回れ,よき出会いにショートカットはない」。この言葉のまま,森田さんの「記憶に残る本」は意外な一冊でした。その本が「『数学で心と身体を整える』といういまの自分の着想のきっかけにもなった」そうです。どんな本なのかって? それは小誌のページでぜひご覧ください(ほんっとに,ケチですみません!)

 

夢を見つけに書店へ行こう
 最後は,横山広美・東京大学理学系研究科准教授。大学院時代の専門は素粒子実験で,現在は理学部の広報を担当され,科学コミュニケーションの研究をされています。 幼いころに児童文学作家にあこがれたという横山先生は,小学生のときから図書館でたくさんの本を借りて読んだという本好きの代表のような方。読書歴は児童書から科学書へ,文豪の著作や詩の世界へと,どんどん広がっていったそうです。
 「貴重な時間を無駄にせず,自分の夢をしっかり見つけ,専門性を磨いて将来に備えてほしい」と新入生にメッセージを送ります。でも,夢ってどうやって見つけるの? そんな人はぜひ書店へ足を運んでとアドバイス。「様々な分野の書棚の間を歩くうちに,きっとヒントになる本に巡り会えるはずだ」。この特集にぴったりの言葉で締めてくださいました。(後半了)