SCOPE & ADVANCE

一夜漬けはやめよう〜日経サイエンス2012年5月号より

間隔を変えて繰り返すのが最良の学習法らしい

 

 高校や大学の先生はいつも,一夜漬けの勉強はしないようにという。学期を通して少しずつ順に勉強するのが王道だ。昨年12月にNature Neuroscience誌電子版に掲載された研究は,この教育学の常識を生物学的に実証したようだ。また,さらに一歩踏み込んで,最適な学習間隔も提唱している。複雑な有機化合物の分子構造や難しい漢字を覚えるよい方法につながるかもしれない。

 テキサス大学医学部ヒューストン校の神経生物学者バーン(John H. Byrne)らは,コロンビア大学のノーベル賞学者カンデル(Eric R. Kandel)の研究室で開発された学習法にひとひねりを加えた。カンデルの方法はウミウシの一種であるジャンボアメフラシ(Aplysia californica)の尾に一定間隔でショックを加え,時間がたってから軽いショックを与えて過剰な反応を示すかどうかを見るというもの。過剰に反応した場合,以前の経験をよく覚えていることになる。

 バーンらが狙ったのは,この反応の背景にある化学反応を調整することによって学習プロセスを強化できるかどうかを見極めることだった。アメフラシの全身ではなく,少数の神経細胞(感覚ニューロンと運動ニューロン)をシャーレに入れて実験した。神経伝達物質セロトニンのパルス(ショックに相当)を20分間隔で5回加えた。セロトニンの刺激によってニューロン内部で酵素が働き始め,一連の生化学反応が起こった結果,ニューロンの発火が強まった。「この刺激は覚えている。痛いんだ」といっているようなものだ。

 反応には2種類の酵素が協調して働いていた。標準的な等間隔のパルスを加えた場合,細胞内でのこれら2つの酵素の活性は同時に最大になることはなかった。つまり,これは最善の学習法ではないことをうかがわせる。

 

最良の学習間隔

 バーンらはコンピューターを使って,パルスの間隔を様々に変えた1万通りについてモデル計算した。これらのうち酵素が両方ともフルに活性化する組み合わせを探したところ,最良の学習法はパルスを等間隔で加えるのではなく,10分間隔を3回,その5分後に1回,さらに30分後に最後の1回を加えるというパターンであると判明した。このパターンだと2つの酵素の相互作用が50%高まり,学習プロセスがより効率的に進んだことを示した。(続く)

 

続きは現在発売中の5月号誌面でどうぞ。

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