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舌打ちを見くびるな〜日経サイエンス2012年4月号より

アフリカの言語に見られる「舌打ち音」が英語でも予想以上の役割を果たしている

 

 一部のアフリカ人は舌打ちをするが,英語をしゃべる人は舌打ちしない──というのが定説だった。ただし舌打ちといっても,舌打ち音(吸着閉鎖音)のことだ。

 舌打ち音はズールー語やコサ語など少数のアフリカ言語ではちゃんとした子音としての役目を持っているが,英語では馬をせかせたり,キスの音を擬したり,不満や当惑の感情を表したりするためにしか使われないとされてきた。ところが最近,世界共通語たる英語でこれまで考えられていたよりずっと多くの舌打ち音が使われていることが発見された。

 

音声上の句読点

 舌打ち音はこれまで見落とされていた目的のために使われていた。考えやフレーズどうしを区切る“音声上の句読点”となっているのだ。英バーミンガム・シティ大学のライト(Melissa Wright)は最近,英語の会話を大量に録音した6つのデータセットについて舌打ち音を解析した。この結果,ある話題を終えて別の話題に移る印として,舌打ち音が頻繁に使われていることがわかった。例えば「いやあ,すごい試合だったね」と話した後,舌打ちをしてから,「で,電話したのは,明日の夕食をうちで一緒にしないかと思って」という具合だ。

 このパターンは英国人と米国人の両方に見られ,舌打ち音が「ところで」や「それで」というのと同様の意味を持っていることを示している。つまり舌打ち音は,会話を整理し,話し手の意図を聞き手に伝える音声上の手立てとなっている。これまで言語学者は単語と文を個別に調べることが多かったので,これに気づかなかった。ライトが発見できたのは,会話全体の文脈のなかで舌打ち音を解析したためだ。この手法は言語の本質に迫るうえで重要だといえそうだ。(続く)

 

続きは現在発売中の4月号誌面でどうぞ。

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吸着閉鎖音