もつれたダイヤ〜日経サイエンス2012年4月号より
2個が1個のように振動する
素敵なイヤリングのセットなど,ダイヤモンドはペアで使われることが多いが,物理学者たちは最近の実験で,15cm離れた2個のダイヤモンドを「量子もつれ状態」にすることに成功した。量子もつれは,2つ以上の物体に間の空間を橋渡しする目に見えないリンクが生じる現象だ。例えば仮に2個のサイコロが量子もつれになったら,それぞれを別の場所で同時にころがすと,常に同じ目が出る。だが量子もつれは崩れやすいので,物理的系で実験するには高度に制御された環境が必要だ。例えば原子のペアを周囲から隔離し,絶対零度近くに冷やしたうえで量子もつれにする。
今回,英オックスフォード大学とカナダ国家研究会議,シンガポール国立大学のチームは,より一般的な物体を使い,室温で量子もつれを実現できることを示した。差し渡し3mmの四角い人工ダイヤモンドを2つ使った。レーザービームを2つに分割し,それぞれのダイヤモンドに当てた。光子がダイヤモンドで散乱すると,ダイヤモンド中に振動エネルギーの量子であるフォノンが生じる。一方,散乱した光子を検出器に導いた。そうした光子が検出器に1個届くたびに,ダイヤモンド内部にフォノンが存在することがわかる。
フォノンの居場所
「どこかに1個のフォノンがあるのだが,それが左側のダイヤモンドにあるのか右側のダイヤモンドにあるのかは,原理的にも区別できない」と,オックスフォード大学の実験物理学者で今回の論文を共著したウォルムズリー(Ian Walmsley)はいう。それどころか,量子力学的にいえば,そのフォノンはどちらのダイヤモンドにも閉じ込められていない。2個のダイヤモンドは1つのフォノンを共有するような量子もつれ状態になったのだ。
ダイヤモンドは量子科学向きではない(量子もつれが短時間しか続かない)とウォルムズリーはいうが,今回の実験を機に,より一般的な物質を使った量子技術が検討されるようになると期待している。「新たなシナリオと,その方向に研究を向かわせるような新たな実例が出てくると思う」。
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