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遠い祖先もアフリカ起源?〜日経サイエンス2006年2月号より

京大などのチームがケニアで新たな類人猿化石を発見
人類と現生類人猿の共通祖先らしい

 

 

 類人猿と人類の共通祖先が生まれたのはユーラシアだったのか,それともアフリカだったのか──。ユーラシア起源説が有力だが,アフリカで新たに発見された類人猿の化石が論争に一石を投じそうだ。ケニア中部のナカリで見つかった新種の類人猿化石の分析結果が,去る11月の日本人類学会で発表された。
 京都大学と島根大学,地元ケニアの共同調査チームが2005年2月に発見した約1000万年前の大型類人猿の化石で,右の下顎骨と大臼歯3本などを含んでいる。現生類人猿と人類の共通祖先と考えられる特徴を備えているという。

 

アフリカには少ない類人猿化石

 人類がチンパンジーとの共通祖先から分かれたのは700万年前~600万年前とされる。しかし,これに先立つ1300万年前~700万年前の類人猿化石はアフリカではほとんど見つかっておらず,ユーラシア大陸で発見されたものが多い。このため,類人猿が1600万年前~1500万年前にまずアフリカからユーラシアへ移動し,そこで繁栄した後,人類との共通祖先がユーラシアで生まれたとする「ユーラシア起源説」が優勢だ。
 一方,初期人類の化石が見つかっているのはアフリカだけだ。このため,共通祖先もやはりアフリカで生まれたと考えるのが「アフリカ起源説」。ただ,アフリカで発見された類人猿化石はわずかで,1982年に京都大学チームが発見したサンブルピテクス(約960万年前。上顎骨,大臼歯,小臼歯など)と,個別の5本の歯(約1200万年前)のみだった。
 サンブルピテクスは,発見した京大チームによって,類人猿とヒトの共通祖先の系統にあると判定された。これに対しユーラシア起源説派は,大臼歯の歯冠面の特徴から,サンブルピテクスは共通祖先の系統にはつながらないと反論していた。

 

現生の類人猿に似た特徴

 新たな証拠を求めていたアフリカ起源説派にとって,今回のナカリ化石は待望の発見だ。
 ナカリ化石を観察し,CT撮影による分析も行った京都大学理学研究科の中務真人(なかつかさ・まさと)助教授によると,大臼歯はメスのゴリラと同程度の大きさで,サンブルピテクスとは違って特殊化した特徴は見られない。3本の大臼歯のすり減り方が大きいことから,堅果類か,繊維質の多い植物を食べていたとみられる。
 現生のアフリカ類人猿にはない特徴もあったが,総合的に見ると現代の大型類人猿に似ており,アフリカ類人猿と人類の共通の祖先と考えられるという。
 ナカリはサンブルピテクスの発掘地から70kmほど南に位置し,1000万年前の地層が露出しているところもあるので,人類誕生直前の時代の類人猿化石が見つかる可能性がある。島根大学による地質調査の結果から,当時ここは周辺に川が流れる盆地で,小さな湖が点在し,森と草原が混在していたと考えられる。ウシ科動物の歯の化石に基づいて食性を推定した研究からも,当時の環境が草原に囲まれた森林だったとみられる。
 当時は乾燥化が進み,森林が縮小し,草原が広がり始めていた。ナカリの西方約70kmで見つかった約600万年前の初期人類オローリン・トゥゲネンシスをはじめ,昨今の初期人類化石の発見から,二足歩行は近くに川や沼があり,湿った森林環境で起こったと考える研究者が多い。森林の周囲に草原が広がる環境はナカリと似ている。
 今後,現生類人猿に似た特徴を持つ四肢骨がアフリカでも見つかれば,人類誕生と二足歩行の起源をめぐる謎に迫れるだろう。劣勢だったアフリカ起源説が浮上してくるかもしれない。

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