時空に刻まれた溝〜日経サイエンス2006年5月号より
1990年代半ばを最後に活動が止まっていたブラックホールが最近再び活発化し,ブラックホールの自転を推定するのに使われてきた仮定が裏づけられた。自転は質量とともにブラックホールの重要な特性だ。
物質がブラックホールの周囲で渦を巻いて運動すると,軌道半径と直角方向に光を発する。灯台のようなものだ。ブラックホールの質量と自転に応じて時空に“溝”が刻まれるため,物質の軌道がさまざまによろめき,光の放出に揺らぎが生じると考えられている。
1996年,そうした“溝”の存在を示すX線振動パターンを「GRO J1655-40」というブラックホールが放出しているのが観測されたが,その活動は数カ月で停止した。ところが2005年,このブラックホールに伴星からのガスがつかまって再び流れ込むようになり,8カ月間にわたってその様子が観測された。そして,放射のパターンが以前とまったく同じであることがわかった。
「9年後にも同じ振動数の光が検出されたということは,実に基本的な特性に基づいていることを意味している」とマサチューセッツ工科大学のホーマン(Jeroen Homan)はいう。いい加減な幻ではない。これらの基本周波数を計算に入れると,ブラックホールの自転をもっと精度よく決定できるのではないかとみて,ホーマンらは研究を続けている。1月9日に米国天文学会年会で報告。