SCOPE & ADVANCE

走りっぷりをあげたASIMO〜日経サイエンス2006年5月号より

高速で旋回,ジグザグ走行もOK

 

 ホンダの人型ロボットASIMO(アシモ)の走りがさらにヒトに近づいた。走行速度が従来の2倍の時速6kmに速まり,やや複雑な走りもできるようになった。
 2月中旬,東京の日本科学未来館で本格的な走行デモが行われ,大勢の親子連れの喝さいを浴びた。特設ステージでASIMOはまずラジオ体操をして“それなりの柔軟性”を披露。次いで片足で立ち,浮いたほうの足をぐるぐる回して入念な“ウォーミングアップ”を行い,やおら走り出した。
 腰を落とし,膝を曲げて走るスタイルは以前と同じ。一見したところでは,ステップごとに腕を振って上体をひねる動作も従来通りだが,実はこの姿勢制御にはかなり改良が加えられたという。
 130cm,54kgで,関節の自由度が全身の合計で34という基本仕様はもとのまま。走行中,両足が浮く跳躍時間も従来とさほど変わらないが,歩幅を300mmから525mmに広げることで速度向上を図った。跳躍時には従来の8倍強も(といっても50mmだが)前進できるようになった。関節部のモーターの力をやや強めたほか,足や腰に付けたセンサーからの情報を従来よりも頻繁に取り込んで小刻みに姿勢制御を行うことで実現した。
 ASIMOがステージでジグザグ走行(スラローム)や高速旋回をすると,観客からどよめきが上がった。旋回時には遠心力につり合うように体を内側に傾ける制御をしているので,危なっかしさはまるで感じられない。開発チームの重見聡史(しげみ・さとし)主任研究員によると「上体の回転モードを細かに制御したことが高速化につながった」という。
 新型ASIMOはトレイの受け渡しや手をつないで歩くなど,人の動きに合わせた行動ができる。独自開発のIC通信カードを持つ人と通信し,その情報を読み取って自動で受付・案内業務を行うことも可能。また,搭載された視覚センサー,超音波センサー,赤外線センサー,力感覚センサーなど各種センサー情報から周囲の環境や人物を認識し,状況に応じて自らの動作を決められるようになった。まだ限定された環境での運用だが,「今後も身体的能力と知的能力の両方の向上を図っていきたい」と重見氏は語る。

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