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猿人の急な進化〜日経サイエンス2006年8月号より

 人類進化のミッシングリンクがひとつ埋まった。新発見の化石によって,猿人のアウストラロピテクス属がアルディピテクス属から急速に進化した可能性が高まった。

 

 新発見の化石は最古のアウストラロピテクス属とされるアウストラロピテクス・アナメンシス(約420万年前)のもので,犬歯や臼歯,大腿骨や手足の断片骨など。発見したのは米カリフォルニア大学バークレー校のホワイト(Tim D. White)らで,東京大学の諏訪元(すわ・げん)教授らも加わって詳細に分析し,その結果をNature誌4月13日号に発表した。

 

 発見場所はエチオピアのアワシュ川中流域で,このあたりは化石の宝庫として知られている。有名な「ルーシー」が属するアウストラロピテクス・アファレンシス(アファール猿人,約360万年前)や,アルディピテクス・ラミダス(ラミダス猿人,約450万年前)も同地域から発見された。
アナメンシス猿人の化石はこれまではケニアからしか出ておらず,数も少なかった。このため,彼らの祖先がラミダス猿人であるとは断定できなかったが,今回の発見で同地域から出た3種の猿人の歯を初めて比較できるようになり,これらが系統的につながることがわかった。

 

 歯は化石として残りやすく,肉眼による観察結果だけでなく,マイクロCTスキャンで調べたエナメル質の厚さなど,系統の連続性や集団間の相違などを判定する各種の手がかりが得られる。アルディピテクス属とアウストラロピテクス属の区分も,歯のデータが基礎になっている。

 

 これまでの研究から,猿人の臼歯はしだいに大きく,犬歯は華奢に,エナメル質は厚くなったことが知られている。「今回,アナメンシス猿人の複数個体から臼歯と犬歯がいっしょに見つかったので,これらの比率からラミダス猿人よりも臼歯が大きくなったと判定できた」と諏訪教授。

 

 また,3種の猿人の犬歯の比較から,「華奢化が進み,歯の裏側の凹凸が浅くなって,ホモ属に見られるへら状の犬歯に近づいていく傾向が確認できた」。さらに,新発見の歯のエナメル質はラミダス猿人のものよりも厚かった。臼歯は大型化し,一方で表面が擦り減っていたので,「アナメンシス猿人はより開けた環境にも出て行くようになり,堅い食べ物が増えて咀嚼(そしゃく)器官が頑丈になっていった」と諏訪教授は推測する。
このようにラミダス猿人とアナメンシス猿人の歯にはかなりの違いがあり,食性の変化をうかがわせるのだが,年代的な差は30万年ほどにすぎない。比較的短期間に大きな変化が起こったことになる。

 

 ただし,その過程はあくまで連続的で,系統の分岐も起こらなかったようだ。今回の発見は「人類の種分化は枝分かれを伴い,多様性を促進していく」と考える多くの理論派研究者の予想を裏切る実例にもなると発掘チームは考えている。

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