SCOPE & ADVANCE

熱すると抗ガン剤を放出〜日経サイエンス2006年9月号より

 熱を加えると壊れる微小カプセルに抗ガン剤を入れ,患者に投与して体外から温めることで,病巣だけに抗ガン剤を放出する──。そんなドラッグデリバリーシステム(DDS)を大阪市立大学の河野健司(こうの・けんじ)教授らのグループが開発した。副作用の影響を最小限に抑えることができそうだ。
 このカプセルは直径約100nm。細胞膜と同じリン脂質とコレステロールでできたリポソーム(分子膜の微小カプセル)で,内部に抗ガン剤のアドリアマイシンを封入した。生体から排除されないよう,表面は親水性のポリエチレングリコールと感温性高分子(ビニルエーテルポリマー)で修飾してある。
 この感温性高分子は体温(37℃)以下では親水性で,水和して広がった構造をとるが,40℃以上では疎水性に変わって収縮する性質がある。疎水性になるとリポソームが壊れ,抗ガン剤が放出される仕組みだ。45℃で1分間加温した実験では80%以上のカプセルが壊れ,実際に抗ガン剤が放出された。
 ガン組織には毛細血管が多く,正常な血管よりも血液中の物質がしみ出しやすい。そのため,このカプセルを投与するとガン細胞付近に集中的に溜まっていく。ガンを移植したマウスにこのカプセルを投与し,12時間後に病巣を45℃で10分間加温する実験を行ったところ,ガンの成長が強く抑制された。
 抗ガン剤を病巣だけに送達できれば,嘔吐などの辛い副作用を軽減できる。このためさまざまなDDSが研究されてきたが,「加熱と同時にほとんどが壊れる高感度なDDSはこれまでなかった」と河野教授は話す。
 一方,ガン病巣を加温してガン細胞を死滅させる局所温熱療法がすでに実施されている。局所温熱療法と今回のカプセルを併用すれば,高い治療効果と低い副作用を両立する効果的な治療法につながる可能性がある。

サイト内の関連記事を読む