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B中間子の崩壊から超対称性理論を探る〜日経サイエンス2006年10月号より

検出が極めて困難な崩壊パターンをBファクトリーがとらえた

 

 茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構で実験に取り組んでいる国際共同チームが,ニュートリノの発生を伴うB中間子の崩壊をとらえることに成功した。この崩壊パターンは観測そのものが極めて難しいとされてきたが,こうした観測事例を積み重ねれば,現在の標準モデルを超える有力理論「超対称性理論」を検証できそうだ。
 実験にあたったのは大型加速器Bファクトリーで粒子衝突実験に取り組むBelle実験グループ。Bファクトリーでは電子と陽電子を衝突させて膨大な数のB中間子と反B中間子のペアを生み出し,それらがさまざまな粒子に崩壊する様子を精密観測している。
 崩壊には100種類以上のパターンがあるが,ニュートリノは他の粒子とほとんど相互作用しないので,直接には検出器にかからない。その存在をチェックできるのは,崩壊で生じた全粒子を特定して,エネルギーや運動量が精密に求められた場合だけだ。全粒子のエネルギーと運動量をそれぞれ合計して,衝突前よりも減っているなら,その欠損分をニュートリノが持ち出したことになる。
 研究グループは昨年夏までの実験で得られたB・反B中間子のペア約4億5000万対の崩壊データを解析し,約0.3%について崩壊後にできた全粒子を特定。そのなかからニュートリノが発生した崩壊を17例見つけた。
 Bファクトリーの検出器Belleの観測精度は非常に高いが,全粒子を特定する解析作業は極めて難しく,当初は特定可能な崩壊現象は全体の0.1%以下だと考えられていた。しかし創意工夫でその割合を大幅に引き上げることができ,「私たち自身も本当にびっくりした」と実験代表者の山内正則(やまうち・まさのり)高エネ機構教授は話す。
 ニュートリノを伴う崩壊は標準モデルで存在が予測され,発生確率が求められている。しかし,超対称性理論が正しければ,B中間子が崩壊する途中で「荷電ヒッグス粒子」という新粒子が生まれ,それが崩壊してニュートリノが発生する例があると予想される。この場合,ニュートリノを伴う崩壊の確率が標準モデルの予想とは違ってくる。
 今回の解析結果は標準モデルの予言と一致したが,荷電ヒッグス粒子の存在の可能性が否定されたわけではない。「荷電ヒッグス粒子に想定される質量や,他の粒子との結びつきの強さなどを絞り込むことができた」(山内教授)という。研究グループは今後さらにデータ数を増やし,解析精度を上げることで,未知の粒子を追いつめたい考えだ。

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