光を停止,再発進〜日経サイエンス2007年6月号より
1999年,ハーバード大学のハウ(Lene Hau)らは,1秒間に29万9792kmも進む光の速度を自転車でも達成可能なスピード(時速約60km)にまで落とした。その数年後には,光ビームを完全に停止させた。そして今年,同チームは新たな“量子魔術”を実現した。光を物質に変換した後,再び光に戻したのだ。
この物質はボース・アインシュタイン凝縮体(BEC)と呼ばれる極低温原子気体のペアだ。実験では,片方の凝縮体にレーザーパルスを入射し,そのエネルギーを凝縮体に分け与えた。この凝縮体の原子からなる物質波が160μm移動してもう1つの凝縮体にぶつかり,原子は第2の凝縮体に吸収された。そして,吸収された原子が,もとの光パルスと完全に同じ光パルスを放射した。
ハウによると,この技術はいずれ光通信や超精密ナビゲーションシステムに使われるかもしれない。Nature誌2月8日号に掲載。