SCOPE & ADVANCE

現実味帯びるビーム兵器〜日経サイエンス2007年8月号より

高出力の固体レーザーが数年内に配備されそう

 

光線銃といえば長らくSFの定番アイテムだったが,米国では今後数年で実戦兵器に仲間入りするかもしれない。防衛企業数社がトラック大の「レーザー砲」に必要となる主要部品を試作し,性能試験に成功した。このレーザー砲は航空機や軍艦,装甲車からビームを発射し,何kmも離れた標的を攻撃できる。途中に砂塵や霧があってもOKだ。
国防総省高エネルギー・レーザー技術局(ニューメキシコ州アルバカーキ)の局長ニース(Mark Neice)によると,出力数十万kW規模の高出力レーザーは従来の飛び道具に比べて優れた点がいくつかある。「超精密で,文字通り光速での攻撃が可能。巻き添え被害もほとんど,あるいは完全になくせるだろう」。
過去にはあまりに楽観的な予測が先行したため,懐疑派は「レーザーは未来兵器,いつまでたっても未来の兵器」と皮肉ってきた。が,今度こそ現実味を帯びてきたようだ。「攻撃と防御に実際に使える指向性エネルギー兵器が配備される日は近い」とニースはいう。
過去1年ほどの間にノースロップ・グラマンとテクストロン,レイセオン,米国立ローレンス・リバモア研究所のチームは,陸・海・空軍の資金援助を受けて,電力で駆動する固体レーザーの開発を大きく前進させた。

 

来年には出力100kW実現へ

平均出力100kW以上の固体レーザーを車載電源(燃料電池か蓄電池群)と組み合わせれば,実質的に“無限の弾倉”を備えた兵器になる。一発あたりの費用も安くなり,飛来する砲弾やロケット,ミサイルを5~8km離れた場所から爆破できるだろう。敵の電子・光学センサーや赤外線センサーをくらますこともできるし,地雷や時限爆弾などを安全な場所から無力化できる。
レーザーのカギとなるのは光子を増幅する「利得媒質」だ。DVDプレーヤーなど家庭用電子機器に使われている半導体レーザーでは,電気的な刺激を受けて,半導体の層が光を増幅する。これに対し固体レーザーの利得媒質は一辺数cmの正方形または長方形をした板(スラブ)になると,ノースロップ・グラマン・スペース・テクノロジーのギッシュ(Jackie Gish)は説明する。イットリウム・アルミニウム・ガーネットなどの硬いセラミックス材料に希土類元素のネオジムを添加した材料だ。そして電気ではなく,多数の半導体レーザーで照らして光学的に励起する。一般にスラブが大きいほど出力も大きくなる。
複数のスラブを連結して数十kW級の“レーザーチェーン”にする。テクストロン・システムズの応用技術担当副社長ボネス(John Boness)によると,連結の仕方はさまざまだ。来年にはこれらのチェーンを直列または並列に組み合わせ,軍事用レーザーとして必要最低限とされる出力100kWを実現する計画。

 

実戦配備に必要な条件

このほか重要な性能目標として,300秒の作動時間(レーザーを複数回発射できること),電気エネルギーから光エネルギーへの変換効率が17%以上であること,そして“ビーム品質”がある。基本的には細く絞ったビームが必要。対象を破壊したり進路をそらしたりするには,十分な数の光子が標的に達して効果的に加熱できなければならない。
これらの目標が達成されるとして,実戦配備の可能性は,1台の車両に積載できるコンパクトなシステムに仕上げられるかどうかにかかってくるとボネスはいう。再利用可能な1000kW以上の電源のほか,固体レーザーのスラブが過熱してビームが歪むのを防ぐために冷却装置が必要だ。
また,レーザーを標的に導くためのビームガイドも必要だろう。これはおそらく,大きな可動式の鏡で構成し,大気によるビームの歪みを補正する補償光学系などを備えたものになる。低出力の“検出用ビーム”を試しに放射して,大気による歪みを計測する。狙いを定めるには,標的を追跡するレーダーまたは光学式システムと組み合わせる必要がある。
効果的なビーム兵器は軍事行動に革命をもたらすだろうが,これら技術のすべてを詰め込んで携帯可能な光線銃に仕立てるのはいまのところ無理。カーク船長のフェイザー銃はまだまだSFの世界だ。

 

超強力!化学レーザー
米軍は化学反応をエネルギー源とする強力なレーザーを開発ずみだ。化学励起酸素ヨウ素レーザー(COIL)という出力メガワット級の装置で,固体レーザーよりもずっと強力。ただし,はるかに大型なうえ,反応剤が尽きると発振できなくなる。それでも防衛企業は航空機への実装を準備している。
一例はボーイング747に搭載予定の「YAL-1A空中発射レーザー」と呼ばれるシステムで,空対空のスタンドオフ型攻撃,特に弾道ミサイルの迎撃が狙い。またAC-130輸送攻撃機は「高度戦術レーザー」を利用する予定で,こちらは正確な空対地攻撃が目的だ。

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