幹細胞を得る新手法〜日経サイエンス2007年10月号より
胚性幹細胞(ES細胞)を劇的に入手しやすくできそうな方法が2つ登場した。生化学的手法を使ってマウスの皮膚細胞を再プログラムし,胚細胞とほとんど区別がつかない細胞に戻すことに,3つのチームがそれぞれ独立に成功した。
あるウイルスをベクター(遺伝子の運び手)として使って,胚細胞内で発現している4つの重要な遺伝子を成体マウスの皮膚細胞に導入し,皮膚細胞の“時計”を実質的に逆戻りさせた。これらを胚盤胞(受精後まだ数日の胚)に注入すると,細胞層の発達に寄与し,胚の細胞と混じり合いながら育った。
Nature誌オンライン版6月6日号とCell Stem Cell誌6月7日号に報告されたこれらの研究結果は,京都大学の山中伸弥(やまなか・しんや)教授らの研究を発展させたものだ。山中教授のチームは昨年,上述の方法で同様の細胞を作り出したが,分化能力に限りがあった。来年にはこの手法がヒト細胞でもうまくいくかどうかがわかるだろう。
一方,Nature誌6月7日号は,受精後間もない単一細胞段階の受精卵(接合子)から幹細胞を導き出す方法を掲載している。これまでは,胚性幹細胞の作成に使えるのは未受精卵だけだと考えられていた。
研究にあたったハーバード大学のグループは受精卵の核を取り除くのではなく,受精卵が分裂して再び核ができる前にその染色体を成熟細胞の染色体と入れ替えた。クローンマウスができるほか,幹細胞を抽出して利用することも可能になる。不妊治療病院では体外受精による受精卵のうち利用しなかったものを廃棄しているのがふつうで,これらは未受精卵よりも豊富にある。