深海から胃腸へ〜日経サイエンス2007年11月号より
病原菌が温かな人体のなかで生き続けられるのはなぜか。どうやら,微生物が深海の高温熱水噴出孔で生き永らえるよう進化したことと関係がありそうだ。
海洋研究開発機構(JAMSTEC)の科学者たちは深海バクテリア2種のゲノムを,ヘリコバクターとカンピロバクターのゲノムと比較した。ヘリコバクター属はピロリ菌など潰瘍をもたらす細菌で,カンピロバクター属は食中毒の主因だ。この研究によると,深海細菌が熱水噴出孔にいる他の微生物と共生関係を保つのを助けているとみられる複数の遺伝子が,胃腸にすむ細菌の場合は免疫系の攻撃をかわすのに寄与している。
熱水噴出孔にいる細菌は特別な酵素のおかげで水素を“食べて”生きていけるが,ヘリコバクターとカンピロバクターも同様の酵素を持っているので胃腸で水素をエネルギー源にできる。また,深海細菌は有害な細菌と同様にDNA修復遺伝子をほとんど持たず,突然変異が頻繁に生じる。このおかげで両者とも状況変化に素早く適応し,免疫反応に対抗できるようになっている。
これらの病原菌は深海にいた祖先から進化し,後に動物と共生するうちに毒性を持つようになったのだろうという。米国科学アカデミー紀要7月17日号に掲載。