アルツハイマー病を防ぐプリオン〜日経サイエンス2007年11月号より
異常型プリオンタンパク質はBSE(牛海綿状脳症)や類似の脳の病気の原因だが,正常なプリオンの役割はよくわかっていない。ヒトの場合,正常なプリオンタンパク質がアルツハイマー病から私たちを守ってくれている可能性がある。
アルツハイマー病では,異常に折り畳まれたベータアミロイドというタンパク質が脳に蓄積する。英リーズ大学の生化学者フーパー(Nigel Hooper)らは,ヒトの細胞中に正常なプリオンタンパク質が高濃度で存在すると,ベータセクレターゼという酵素が阻害されてベータアミロイドが生じにくくなることを発見した。正常なプリオンタンパク質ができないように遺伝子操作したマウスの脳には,かなり高濃度のベータアミロイドが生じた。
フーパーはプリオンタンパク質がアルツハイマー病の早期発症を抑えたり,酸化ストレスを防いでいる可能性があるという。酸化ストレスはアルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患に関連すると考えられている。さらに研究が進めば,ベータセクレターゼを阻害する新薬ができるかもしれない。米国科学アカデミー紀要6月26日号に掲載された。