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レーダーに映らないステルスアンテナ〜日経サイエンス2008年4月号より

プラズマアンテナはスイッチを切ると“消える”

 

 

 レーダーは電波を使って夜間や悪天候のなかでも遠くを認識でき,航空機や船舶などに設置されている。ただ,送受信用の金属アンテナは他のレーダーの電波を強く反射するので,レーダーにくっきり映ってしまう。戦時では致命的な不都合だ。
 これに対し新種の非金属アンテナは,スイッチを切ると電波を反射しなくなり,他のレーダーから見えなくなる。管に封入したガスを活性化し,自由に動く電子とイオンの雲を作り出してアンテナにするもので,「プラズマアンテナ」と呼ばれる。

 

 

電離ガスで電波を放射・吸収・反射

 プラズマアンテナの概念は数十年前からあれこれ検討されてきたが,最近,マサチューセッツ州ブルックフィールドの小企業ハレアカラ・リサーチ・アンド・デベロプメントの社長アンダーソン(Ted Anderson)とテネシー大学ノックスビル校の物理学者アレクセフ(Igor Alexeff)の研究によって,再び注目されるようになった。彼らの研究は,小型で妨害電波を受けにくいアンテナの可能性を開く。消費電力はそこそこで,騒音がほとんどなく,他のアンテナと干渉せず,さまざまな周波数に容易にチューニング可能だ。
 ガスを封入した管(アンダーソンらは蛍光灯を使用)の一端に無線周波数の電気パルスを加えると,パルスのエネルギーによって内部のガスが電離し,プラズマが生じる。「このプラズマ内部の電子密度は高く,ちょうど金属のような優れた導電体になる」とアンダーソンはいう。活性化状態の密閉プラズマは電磁波を放射,吸収,または反射する。電気のかけ具合を調整してプラズマ密度を変えると,送受信の周波数が変化する。
 さらに,プラズマ密度を適切な値に調整すると,より低い周波数を感知すると同時に,多くのレーダーが使っている高い周波数には反応しないようにできる。そして,金属アンテナと異なり,スイッチを切るとプラズマが瞬時に中性ガスに戻って,アンテナは事実上消え失せる。

 

 

電磁シールドや指向性アンテナにも

 この“消えるアンテナ”にはいくつかの応用が考えられる。アレクセフによると,防衛企業のロッキード・マーチンは近々,低周波の電波を送受信中でもレーダーに検知されないように設計されたプラズマアンテナ(丈夫な非導電性ポリマーの管にガスを封入)を飛行に搭載して試験する予定だ。一方,米空軍はこの技術を使って人工衛星の電子機器をシールドすれば,敵のミサイルから発せられた強力な妨害電波から守れるだろうと期待している。
 また,米空軍は指向性を変えられるプラズマアンテナ・アレイに関する研究を支援している。1個のレーダー送受信機を多数のプラズマアンテナ反射器でぐるりと取り囲んだ構造だ。「アンテナの1つを切ると,中心の送受信機から放射されたマイクロ波信号がこの“窓”を通り抜け,高い指向性を持つビームになる」とアレクセフはいう。逆に,指向性の高い受信機にもなり,電波発信源の位置を正確に割り出せる。
 とはいえ,この技術に詳しい研究者すべてが楽観的な見方をしているわけではない。米海軍研究所のプラズマ物理学者マンハイマー(Wally Manheimer)は「海軍は10年以上前にプラズマアンテナ技術を研究した」と振り返る。イージス艦など米海軍の船舶では金属製フェーズド・アレイ・レーダーがいまも使われているが,プラズマアンテナなら小型でステルス性の高いものになると期待された。
 フェーズド・アレイ・アンテナは電子的な操作によって,マイクロ波ビームを標的に向けて放射する。海軍の研究者はプラズマアンテナの指向性を磁場によってコントロールすることで,より正確なアレイを開発しようと試みた。十分な機能を発揮するにはビームを縦横2方向に操作できなくてはならないが,残念ながら1方向にしか動かせなかったため,海軍はこの計画を取り止めた。

 

拮抗的多面発現?

 スタークスらは,ハンチントン病が「拮抗的多面発現」の一例だと考えている。拮抗的多面発現とは,ある遺伝子がその生物に相反する作用を発揮する状況のことだ。
 「ハンチントン病患者を衰弱させる病原性タンパク質の集合体が,病気を発症する前の人生の最盛期には,むしろ体を強くして生殖を成功しやすくしているのかもしれない」とエスケナージはいう。悪影響が出るのは生殖可能時期が終わってからだから,この変異は世代を超えて受け継がれていく。
 しかしこれは大胆な推測だ。生殖可能な年齢を迎える前や最中にハンチントン病を発症する人も多いと,アイオワ大学ハンチントン病センター所長のポールセン(Jane Paulsen)はいう。発症年齢の平均は39歳だが,変異の程度によって2歳から82歳まで幅がある。「この議論は,患者のうち未発症期と生殖可能期がたまたま重なったごく一部の集団にしか当てはまらない」とポールセン。
 さらに,ハンチントン病が完全に進行するのは人生後半になってからだとしても,変異遺伝子を持つ人はハンチントン病と診断される何年も前にうつや認知障害など精神的な変化を示すことが多いと,英ケンブリッジ大学の分子神経遺伝学者ルビンスツァイン(David Rubinsztein)はいう。こうした変化が,子どもを持つかどうかの判断や生殖能力に影響しているかもしれない。「ハンチントン病患者が多産であるという説に,私は完全には納得できない」。
 スタークス自身も,Medical Hypotheses誌2007年11月13日号に発表したモデルが推測の域を出ないと認めている。だが,p53の高値をがん発症率の低さと多産傾向に結びつけるアイデアは,さらなる研究を誘発するだろうと期待する。ポールセンも,このモデルが間違いだったとしても,関心が高まるのは確実で,それはよいことだと賛同する。
 「挑発が科学に果たす役割とは何か?」とポールセンは問う。理想的には「それは科学を進歩させること。仮説というのは,そのためのものだ」。