仲良し二重らせん〜日経サイエンス2008年6月号より
薄気味の悪い遠隔作用,かもしれない。同じ配列のDNA二重らせんどうしは,案内役の分子なしに,距離を隔てたところから互いを認識し,寄り集まる。
DNAの塩基が引き合うのは驚くにあたらない。塩基対は右手と左手のように相補的な関係にあり,アデニンはチミンと,シトシンはグアニンと結合する。ただし,いったん二重らせんの形に結合すると,これらの塩基は強く帯電した糖とリン酸塩の糸の陰に隠れてしまう。
だが,ロンドン大学インペリアルカレッジと米国立小児保健発達研究所(NICHD)の科学者たちは,同じ配列のDNA二重らせんどうしが集まりやすいことを発見した。最高で3nm離れていても,配列の異なるDNAどうしの場合と比べると,2倍の確率で寄り集まる(ちなみにDNA二重らせんそのものの太さは2nmほど)。
それぞれのDNAを構成する塩基のせいで二重らせんがねじれるのだと,研究チームは推測している。帯電している糖やリン酸基は他のDNA二重らせんについている糖やリン酸基と反発するものの,同一配列の二重らせんは同じねじれカーブになる。そのため,どの二重らせんDNA分子も互いにある程度は反発するが,ねじれ方が同じものは互いにフィットしやすく,似たものどうしが集まりやすくなる。
この引き寄せ合いは,DNAの複製が起こる際に遺伝子断片が適正に整列して,DNAを注意深く組み立てるのに役立っているのかもしれない。また,がんや老化の原因となる遺伝子複製ミスを防いでいる可能性も考えられるだろう。Journal of Physical Chemistry B誌1月31日号に掲載。