アスベストの影響〜日経サイエンス2008年8月号より
アスベストやシリカ(ケイ石粉)を吸い込むと肺を害することは古くから知られているが,そのダメージがどのように起こるのかは謎だった。最近,マウスを使った実験で重要な役者が浮かび上がった。体内で免疫系を強く活性化する「Nalp3インフラマソーム」というタンパク質複合体だ。
アスベスト繊維が体内で分解されると最終的に活性酸素が作り出され,それがインフラマソームを活性化して,肺に炎症が起こるらしい。Nalp3インフラマソームを持たないマウスはアスベストへの反応が鈍かった。
研究メンバーであるローザンヌ大学(スイス)のチョップ(Ju¨rg Tschopp)によると,肺の炎症はアスベスト曝露から10年後に明確に現れるとみられ,アスベストを吸入した人はこれを調べる検査を受けるべきだ。また,Nalp3インフラマソームは痛風など他の免疫応答疾患にも関係しているので,アスベスト吸入に伴う肺の炎症性疾患を痛風薬によって抑えられるかもしれないと推測している。Science誌オンライン版4月10日号に掲載。