News Scan

ケロロを救え〜日経サイエンス2008年10月号より

絶滅の危機に瀕する両生類を救う「箱舟」計画が始動

 

 

 両生類は他のどの生物グループよりも速いペースで絶滅に向かっている。1980年以来,122の種が消滅したようだ。ざっと6000の現存種の半分が絶滅の危機に瀕しており,約500種は捕獲して育てないと今後50年で絶滅しかねない。現在,世界中の動物園など関係機関が共同で「両生類の箱舟」プロジェクトに取り組んでいる。消えつつある両生類の種をすべて守り,いずれ生息地に戻す計画だ。
 両生類の絶滅の危険が特に高いのは,陸と水の両方に依存しているためかもしれない。水陸どちらか一方の生息環境が悪化しても,影響を受ける。さらに,空気と水を容易に通す薄い皮膚をしているので,あいにく汚染物質も体内に入り込みやすい。
 直近の脅威は「カエルツボカビ」という寄生性の真菌だ。1950年代以前にアフリカツメガエルが実験動物や妊娠検査用(妊婦の尿をメスのカエルに注入すると産卵するようになる)として世界中に出荷され,これに伴い図らずもツボカビが広まったらしい。いったんツボカビが生息適地を見つけると,そこにいる両生類の半分が3カ月以内に死んでしまう恐れがある。野生でツボカビを抑制・根絶する方法は,いまのところない。
 しかし,最大の脅威は生息環境の破壊や消失だ。例えばプエルトリコトサカヒキガエルの重要な繁殖場所だった池が「現在は海辺の駐車場になっている」と,ニューヨークにあるブロンクス動物園の爬虫両生類学の学芸員プラムック(Jennifer B. Pramuk)はいう。

 

世界の500機関で保護飼育へ

 「両生類の箱舟」が発足したのは2006年,両生類の大量死が明らかになった直後だった。生物種を捕獲して育てた後に野生に返す例は以前からあるが,動物の分類グループ単位まるごとを対象にした大規模な取り組みは「前例がない」とプラムックはいう。
 目下のところ,両生類を長期飼育できる設備のある動物園は限られ,世界の動物園を合わせても50種ほどしか保存できない。「両生類の箱舟」は動物園や水族館,植物園,大学など合計500の機関を募り,それぞれ1つの種を保存飼育してもらう計画。例えばブロンクス動物園とオハイオ州のトレド動物園は現在,キハンシヒキガエルという黄色の小さなカエルを飼育している。このカエルは通常,タンザニアのキハンシ渓谷を流れる川の細かな水しぶきに頼って生きているが,2000年にキハンシ川がダムでせき止められて水が枯れたうえ,続いてツボカビがやってきたため,2003年以降,野生では見られなくなった。
 箱舟計画のプログラムディレクターを務めるジッペル(Kevin Zippel)によると,両生類の種を捕獲状態で繁殖させるには,遺伝的多様性を確保するため約50の個体が必要。ただ,「小さな飼育室があれば可能だ」ともいう。「ゾウ1頭の飼育に1年間で約10万ドルかかるが,それと同じ金額で両生類全体を救うための専門家と施設を用意できる」。
 ただし,保護飼育に成功したとしても,カエルたちが故郷に戻れるとは限らない。もとの生息地が破壊されるか,ツボカビに汚染されていることもありえるだろう。ツボカビは寄生相手の両生類がいなくなった後も残り,どれくらいたつと消えるのかは不明だ。安全に野生に返すには,保護区域に少しずつ放して,長期的に監視する必要がある。ツボカビから守るのは不可能ではないにしろ,難しいだろう。ワクチンで免疫を与えても1世代限りだし,殺真菌剤をまくと有益な真菌まで死滅してしまうほか,意図せぬ結果を招く恐れもある。「野生に戻す前に多くの研究開発が必要だ」とプラムックはいう。
 箱舟プロジェクトが離陸するまでには多くのハードルが残っているが,いずれも資金は調達されていない。「多くの人にとって両生類は哺乳動物ほど魅力的ではないかもしれないが,生態系にとって両生類は絶対不可欠だ」とジッペルはいう。さらに,両生類は環境に敏感なので,「彼らに何が起こっているかを見ることで,明日の私たちの身に降りかかってくることがわかるだろう」。

サイト内の関連記事を読む