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一雌一雄と女王バチ〜日経サイエンス2008年10月号より

 「真社会性昆虫」の進化について,生物学者の間で意見の激しい対立が何十年も続いてきた。ハチやアリなど,女王とワーカー,働かないオスが協力的な集団を作って繁殖する昆虫だ。1つは「血縁選択」という説で,繁殖に携わらないメンバーは自分の身内の繁殖を助けることで自らの遺伝子を残すのだと考える。だから,同じコロニーの仲間はみな血縁関係が非常に近いものどうしになる。これに対し「群選択」説は,真社会性昆虫がコロニーで協力して働くのは,それがそれぞれの個体にとって有利だからで,協調精神があるように見えるのは単にその結果にすぎないと考える。コロニーの血縁度が高いとしても,それは集団生活の恩恵を享受するためにお互いが近くにいることを選んだ結果だ。ハーバード大学の生物学者ウィルソン(Edward O. Wilson)らが唱えている説だ。
 英リーズ大学のヒューズ(William Hughes)が率いる研究グループは,真社会性が群選択ではなく血縁選択によって進化したことを示す明確な証拠を初めてつかんだと主張している。ハナバチやカリバチ,アリなど真社会性昆虫267種を調べ,これらが一雌一雄から進化したことを突き止めた。集団の血縁度は一雌一雄の場合に最大になる。
 さらに,2匹以上のオスと交尾する一雌多雄が見られるのはワーカーが永久に不妊化した系統に限られることも発見した。これは血縁選択説に立てば予想されることだといえる。Science誌5月30日号に掲載。英イースト・アングリア大学の行動生物学者バーク(Andrew Bourke)は,この研究は真社会性が進化するには血縁選択が必須の前提であることを示しているという。
 しかしウィルソンは反論する。ヒューズの研究は進化の過程で真社会性を獲得しなかった多数の系統に関するデータを含んでいないほか,真社会性集団での一雌多雄の出現については血縁選択とは無関係の説明が可能だと主張している。

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