遊びで病気拡大〜日経サイエンス2009年1月号より
子を持つ親ならご承知の通り,子どもたちは保育園や学校で風邪などの呼吸器疾患をうつしあい,たちまち広がる。チンパンジーの社会も同じような状況らしい。最近の研究によると,小ザルたちの遊びが仲間に呼吸器感染症を広げているという。
独ライプチヒにあるマックス・プランク進化人類学研究所のキュール(Hjalmar Kuehl)とヴァルシュ(Peter Walsh)が率いる研究チームは,コートジボワールのタイ国立公園で2グループのチンパンジーを調べた。チンパンジーの子どもが呼吸器疾患で死ぬ確率は,仲間と一緒に遊ぶ機会が増えるほど高かった。特に果実の成熟がピークに達してチンパンジーが集まる季節に流行しやすい。2~3歳のチンパンジーは1日の18%を仲間とくっつきあって過ごす。この年齢は社会交流が最も活発で,チンパンジー地域社会の全員とのつながりを築く時期だ。
遊び好きのチンパンジーが感染すると,すべての年齢の小ザルに病気が広がった。動揺した母親はすぐに発情期に入り,最終的に3年周期で小ザルの個体数が増減するサイクルが続いた。キュールによると,密猟や気候変動,捕食の影響とともに,感染症による小ザルの死亡が同地域のチンパンジーに大打撃を与えている。最近では成体まで成長するのはほんのわずかで,「5歳まで生き残るのは10頭のうち4頭だけだ」という。PloS ONE誌2008年6月18日号に掲載。