抗騒音タンパク質〜日経サイエンス2009年6月号より
大音響ギンギンのロックコンサートが好きだが,聴力は守っておきたい──そんな音楽ファンはいずれ,耳栓をするのではなく錠剤を1粒飲んでライブを楽しむようになるかもしれない。騒音が耳に及ぼすダメージを抑えている生化学的な仕組みが突き止められた。
音があまりに大きいと脳が判断すると,内耳の有毛細胞(音を検知して神経に伝える細胞)にあるnAChRというタンパク質が働いて,有毛細胞の応答を抑える。マウスの遺伝子を操作して強力なnAChRができるようにしたところ,小さな音が聞こえなくなったほか,耳元で100デシベルの大音響を鳴らしても聴覚に永続的な損傷が生じにくくなった。
PLoS Biology誌1月20日号にこの結果を発表したジョンズ・ホプキンズ大学のフックス(Paul Fuchs)は「いくつかの薬によってこのタンパク質を変化させられる」という。しかし“防音薬”を作るには「どの程度の量を投与すればよいか,もっと知る必要がある」。だから,耳栓はまだ捨てないで。