アリの自己犠牲行為〜日経サイエンス2009年2月号より
ブラジルにいるForelius pusillusというアリは毎夜,無私無欲の行動を示す。日暮れ時になると,アリたちは巣を守るために巣穴の入り口を砂で覆ってふさぐが,この際に最大で8匹の働きアリが外に残ってこの仕事を完遂し,翌日までに死んでしまう。差し迫った危険に対して自殺的な行為に走る例は知られていたが,先を見越しながら自殺的任務を果たす例はこれが初めてだ。
ポーランドにあるクラクフ農業大学の行動生態学者トフィルスキー(Adam Tofilski)らは,これらのアリが単に巣に入り損ねて外に残されたのではないことを発見した。アリたちは巣穴を覆う作業に進んで協力し,入り口が周囲と見分けがつかなくなるまで,最高で50分にわたって穴に砂をかけ続ける。複数回の実験で外に残った計23匹のうち翌朝まで生きていたのは6匹だけで,この行動が自己犠牲であることが示された。
アリがなぜ死んだのかははっきりしない。このアリの種はか弱いが,外に残った個体は年老いていたか病気だった可能性もあると研究チームは考えている。利他的行為がどう進化してきたのか,その解明につながりそうな発見だ。American Naturalist誌2008年11月号に掲載。