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熱帯雨林が雨を呼ぶ?〜日経サイエンス2009年9月号より

 雨が多いところに熱帯雨林が広がった,つまり熱帯雨林は多雨の結果であるというのが長年の説だ。しかし新しい仮説は逆に,一部の森林は多雨につながる条件を生み出している可能性があるという。
 この「生物ポンプ・モデル」によると,アマゾンなど広大な森林は大量の水蒸気を引き寄せる。この水が蒸発して凝結すると,地域の気圧が下がる。気圧低下が雨を引き起こし,より多くの水蒸気を森林に引き寄せる,という具合に,連続的なフィードバックが働く。
 「そう考えると,内陸の大規模な雨林がなぜあれほど湿潤なのか説明がつくだろう」というのは,野生生物保護協会(WCS)の研究員シール(Douglas Sheil)だ。生物ポンプ・モデルはもともと2006年にロシアのペテルブルク核物理学研究所のマカリーバ(Anastassia Makarieva)とゴルシュコフ(Victor Gorshkov)が最初に提唱したものだが,シールは同モデルに再び注目した論文をBioscience誌4月号に発表した。「森林破壊拡大の危険がさらに強調されることになるだろう」。ただ,この仮説は有望ではあるが,大気循環パターンと植生タイプに関するデータを集めて裏づける必要があるとシールは指摘する。

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