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骨粗鬆症と糖尿病の意外な関係〜日経サイエンス2009年10月号より

密接な関連を示すデータが続出

 

 骨がスカスカになって折れやすくなる──おそらくこれが骨粗鬆症の一般的なイメージだろう。だが,このイメージは「正しいが完璧ではない」と帝京大学ちば総合医療センター第3内科の岡崎亮(おかざき・りょう)教授は話す。
 日本では骨粗鬆症は骨密度(骨の緻密さ)と骨折の有無で診断される。一方,ある病気の人は,骨密度とは無関係に骨折しやすい。糖尿病の患者たちだ。
 生活習慣病としての糖尿病(2型糖尿病)の人は骨密度が平均よりもむしろ高い。太っている人が多く,体重を支えるために骨が緻密になっているためだ。ところが骨折のリスクは糖尿病でない人に比べて1.38倍にもなる。「骨密度からすると骨折リスクは0.8倍くらいに下がっていいはずなのに,むしろ高くなっている」と岡崎教授は指摘する。
 これはデンマークのオーフス大学病院のベスタガード(P. Vestergaard)が文献調査をもとに専門誌に2007年に発表した研究だが,島根大学の山本昌弘(やまもと・まさひろ)助教らが日本人を調べて今年に発表した研究でも,同様の結果が出た。また,平均値の比較とは別に個々人に注目しても,糖尿病ではないグループで骨折した人は骨密度の低い側に集中するのに対し,糖尿病患者のグループでは骨密度が高い人にも骨折者がいる(ただし骨密度が低いほうが骨折が多い傾向はある)。糖尿病患者では,骨密度が高くても骨折のリスクは下がらないのだ。
 糖尿病が進むと視力障害や手足の神経障害といった合併症が生じ,何かにぶつかったり転倒しやすくなるとも考えられる。しかしそうした要因を差し引いても,「糖尿病患者が骨折しやすい」ことに変わりはなかった。

 

密度は十分でも弱い骨

 なぜ,糖尿病患者の骨は密度が高くても折れやすいのだろうか。岡崎教授は「骨の強度を決めるのは密度と質であり,糖尿病患者は骨の質が悪いと考えられる」という。
 骨は鉄筋コンクリートにたとえられる。検診などで骨密度として測っているカルシウム量はコンクリートに相当する。カルシウム量が低ければ,耐震強度偽装に使われた“水増しコンクリート”のようなもので,強度は下がる。骨密度を骨折リスクの指標にする理由はまさにこれだ。一方,骨で鉄筋に相当するのはコラーゲンなどのタンパク質。鉄筋が錆びていたら,鉄筋コンクリートの強度はやはり下がる。
 コラーゲンは繊維状のタンパク質だが,骨のコラーゲン繊維は梁(はり)をわたすように化学的に架橋されることで強度を高めている。ところが,東京慈恵会医科大学整形外科の斎藤充(さいとう・みつる)講師らの研究から,糖尿病ラットでは一部の架橋が異常で,適度な弾性があってしなやかなはずのコラーゲンが硬く脆くなることがわかっている。鉄筋が錆びたような状態だ。
 ヒトで骨の質を調べるのは技術的に難しいが,斎藤講師らの動物実験から,老化や酸化ストレス,高血糖などが異常な架橋を引き起こすことがわかっている。そして,糖尿病ラットの骨は実際に機械的強度が低いことも実験で確認できた。

 

糖代謝と骨代謝を追って

 糖尿病と骨の関係を示すデータはほかにもある。生きている人の骨では常に分解と形成が起こっている。骨代謝と呼ばれるものだ。通常は分解と形成のバランスがとれているわけだが,それが崩れると骨はスカスカになる。
 岡崎教授は,3週間の入院治療をした78人の糖尿病患者の尿や血液について骨代謝の指標となるマーカー分子を測定し,糖尿病治療の前後で比較した。この結果,尿中に糖だけでなくカルシウムも正常域を超えて多く含む患者がおり,治療後にはその値が有意に下がることがわかった。ほかにも治療前には骨の分解が極端に速かったり骨形成が極端に遅いことを示すマーカー濃度の人がいた。そして,治療後はこうした骨代謝のマーカー濃度も正常に近づいた。
 さらに興味深い報告がある。骨と歯の細胞だけが作っているタンパク質に「オステオカルシン」というものがあり,骨形成のマーカーともなっている。米国の研究者がオステオカルシンができないようにした遺伝子欠損マウスを作ったところ,意外なことに糖尿病になった。しかも,オステオカルシンを注射すると糖尿病から回復した。
 丈夫な骨づくりのためにカルシウムとともに重視されているビタミンD(食べ物からのカルシウムの吸収をよくする)も,高血糖との関係が報告されている。ビタミンDが不足気味だと血糖値が高くなるというデータを英国のグループが出しているのだ。
 さらに岡崎教授は糖尿病と骨粗鬆症の不気味な類似点を挙げる。どちらにも動脈硬化による心筋梗塞や脳梗塞などが多いという点だ。糖尿病患者では大動脈にカルシウムが沈着して血管がしなやかさを失うが,CT画像の解析から,骨密度の低下と大動脈のカルシウム沈着にも相関があるという。
 糖代謝が異常となる糖尿病と,骨代謝が異常になる骨粗鬆症に共通の原因があるのか,それとも一方が原因で他方は結果なのか。解明はこれからだ。また,糖尿病ラットの骨は実際に強度が低いし,骨形成に関連するタンパク質を欠損したマウスが糖尿病になるのは確かだが,「これらがヒトにもそのまま当てはまるかどうかはまだわからない」と岡崎教授はいう。それでも,糖尿病と骨粗鬆症に何らかの関連があることは確かなようだ。

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