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簡単に作れる“隠れ蓑”〜日経サイエンス2009年10月号より

特殊なメタマテリアルを使わずにすます新アイデア

 

 近年,物体の周りで光を迂回させて,その物体を実質的に見えなくする“隠れ蓑”のアイデアが,光学研究者によっていろいろ考案されてきた。そのほとんどは,奇妙な光学特性を発揮するよう設計された特殊な「メタマテリアル」を用いるものだ。ところが,メタマテリアルをまったく必要としないずっとシンプルな隠れ蓑が可能だという。
 BAEシステムズ(ワシントン)とトーソン大学,パデュー大学の共同研究チームは,2つの金薄膜に基づく隠れ蓑デバイスを考案した。曲面レンズと平坦なガラス基板にそれぞれ金をコーティングし,基板の上にレンズを重ねると,「テーパー導波路」と呼ばれるものができて,レンズが基板に接している付近を見えなくできる。
 材料の屈折率が位置に応じて連続的に変化している(屈折率勾配がある)のがポイントで,基板とレンズの隙間に横から平行に入射した光は途中で曲がり,中央の領域をよけて通るようになる(右の図を参照)。「石の周りを水が迂回して流れるのに似ている」と,論文の共著者でパデュー大学電気・コンピューター工学科教授のシャラーエフ(Vladimir M. Shalaev)はいう。
 シャラーエフは,可視光領域で働くメタマテリアル隠れ蓑を2007年に設計したグループの一員だった。だが,その隠れ蓑はあらかじめ決められた波長だけでしか機能せず,隠せる領域も非常に小さかった。今回の導波路型デバイスは対照的に,可視光領域の複数の波長に対して働き,隠せる範囲もより大きいようだ。「そうした隠れ蓑の作製が難しいことは私たちも最初から承知のうえだった」とシャラーエフはいう。「理論的に不可能というのではないが,実に実に難しい」。
 ロンドン大学インペリアルカレッジの物理学者ペンドリー(John Pendry)は,テーパー導波路を利用する戦略は「非常に巧妙だ」という。セント・アンドリューズ大学(スコットランド)の物理学者レオンハルト(Ulf Leonhardt)も同意見で,Physical Review Letters誌5月29日号に掲載されたこの論文を「素晴らしい仕事,驚くべきシンプルなアイデア」と評する。
 しかし2人とも,新アプローチによって見えなくできる領域は3次元ではなく2次元である点を指摘する。「隠れ蓑で何かを隠したい場合,その対象はおそらく2次元に閉じ込められてはいないだろう」とペンドリー。実用的な隠れ蓑は難しくても,今回のシステムは光通信に用途がありそうだ。

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