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ダウン症が示すがん治療のヒント〜日経サイエンス2009年10月号より

 ダウン症患者はめったにがんにならない。長年の謎なのだが,もしかすると抗がん遺伝子の数が通常よりも多いためではないかと考えられてきた。ダウン症は21番染色体が1本多いために起こる病気だからだ。
 21番染色体には231個の遺伝子があるが,その1つであるDSCR1遺伝子が1コピー余分にあると腫瘍の拡大が抑えられることを,ボストン小児病院の研究者たちがマウスとヒトについて確認した。同遺伝子はカルシニューリンという酵素の働きを妨げることによって,がんが必要とする血管ができるのを抑えている。新たながん治療薬のヒントになりそうだ。また,21番染色体には血管新生を阻害する遺伝子が4つか5つ存在する可能性があるという。Nature誌オンライン版5月20日号に掲載。
 ダウン症で21番染色体が1本多くなるのは,卵子や精子ができる段階で細胞分裂にミスが生じるのが原因だ。タフツ・メディカルセンターの研究者たちは,ダウン症の胎児を取り巻く羊水のなかに,特に神経や心臓組織の細胞を害するような酸化ストレスが生じている証拠を発見した。
 残念ながら,この証拠は妊娠中期に現れる。精神障害などダウン症の主な特徴は妊娠初期の胎児にすでに生じているので,妊娠中期になってから抗酸化剤を投与してもこれらの症状を未然に防ぐには遅い。それでも,ダウン症のまだ知られていない特質を回避できる可能性はあると,同研究チームは米国科学アカデミー紀要6月9日号で述べている。

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