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分子レベルで進む「収斂進化」の謎解き〜日経サイエンス2012年3月号より

まるで異なる動物で意外な共通項が見つかる一方で謎も深まっている

 

 コウモリとイルカは親戚で,哺乳類とイカはよく似ている? DNAや遺伝子などを使った分子レベルでの国際的な研究によって,これまでの生物学の常識とは違う類似点が数多く見つかってきた。種の系統が違っていても,すむ環境やエサが同じ生物は姿形が似たり同じ機能を持ったりするようになる「収斂(しゅうれん)進化」が起きたためだと考えられている。

 米ミシガン大学と中国科学院のチーム,中国・華東師範大学のチームはそれぞれイルカとコウモリを調べ,超音波の知覚に関係しているプレスチン(タンパク質の一種)のアミノ酸配列が似ていることを突き止めた。プレスチンは聴覚をつかさどる内耳の蝸牛にある外有毛細胞の中に密集,蝸牛内の組織の機械的振動を増幅することで,聴覚の感度を高める働きがある。

 イルカはウシやブタに近く,コウモリと種の系統は大きく離れているが,ともに超音波を出してその反響で周囲の物の位置関係を突き止めるエコーロケーション能力を持つ。プレスチン遺伝子が種の壁を越えて水平伝播するとは考えられないため,それぞれがこの能力を高めるという進化戦略をとった結果,似た遺伝子になったとみられる。

 似ても似つかない動物が遺伝子レベルで調べると意外な共通項が見つかる事例は他にもある。テナガザルの仲間,コロブスは果物や昆虫ではなく主に葉を食べるが,その消化酵素リゾチームのアミノ酸配列は,他の霊長類よりもウシなどの反芻動物に近い。ウシは4つある胃のうち3つに細菌がすみ着き,その細菌に植物を分解・発酵させて栄養を得ている。ウシのリゾチームは細菌を消化する働きがある。

 コロブスにも食道が変化した第2の胃があり,そこで微生物を飼っている。霊長類もリゾチームを持つが,胃ではなく涙や唾液に含まれ,細菌から身を守るために使っている。コロブスは葉を主食とする生活を選択した結果,リゾチームが消化酵素として働くように進化したと考えられる。「遺伝子やDNAレベルの収斂進化は,これまで予想されたよりも多く起きている」と中国・復旦大学の長谷川政美教授は指摘する。(続く)

 

続きは日経サイエンス2012年3月号で。

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